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「森のくまさん」騒動からJASRAC問題まで……著作権10大ニュースで考える、情報社会の明日はどっちだ?寄稿・福井健策弁護士(3/4 ページ)

» 2017年12月26日 10時00分 公開
[福井健策ITmedia]

6.「クマのプーさん」ついに著作権終了

画像 E・H・シェパード描くオリジナル・プー

 次は最強ドル箱キャラクターのパブリックドメイン(PD)入りだ。クマのプー、1926年発表。推定年齢100歳。数年前の報道では年間5000億円のキャラクター収入を稼ぎ出すという森の王者である。しかしその著作権もついに日本で切れる時が来た。Xデイは作者ミルンの死後50年に戦時加算というものが加わった5月22日。以後は日本では誰でも新訳を出版するなど、自由に利用できる。いわば社会の共有財産になるのだ。

 新訳ブームは数年前の「星の王子さま」PD化の時にも起きて、実に20社以上の出版社が新訳出版に沸いた。ただ、プーはその時とは一点違う。星の王子では作者のサン・テグジュペリはあのイラストも描いていた。だからイラストも同時に著作権が切れて誰でも使えたので、どの本にも同じ王子たちが載っていて違和感がなかった。しかしプーは違う。こちらがオリジナル・プーだが(なんてかわいいんだ)、イラストはシェパードという別な人物が描いていた。そしてこのシェパード、長生きだった。

 ゆえにイラスト部分はまだ権利は切れない。だから新訳を出すときには、プー達のイラストを新たに描き起こすしかない。しかも似せてはいけない。著作権侵害になるから。「似ても似つかないプーや仲間達」を描かなければならない。とコラムで予告していたら、ある日、事務所に手紙も何もない小包が届いた(実話)。開けてみたら……角川がやってくれた。どうだろう。なかなか愛敬のあるプーじゃないか?

画像 角川文庫版「クマのプー」(村上勉・絵)

 そしてこのプー、ことによると今後20年間でPD入りする最後の大物かもしれないのだが、その話はあとのニュースで。

7.サルの自撮り写真裁判、決着

 クマの次はサルである。まずはご覧頂こう。

画像

 印象的としか言いようがないこの写真、撮ったのはなんとサル本人である(なぜかNARUTOという名前だ)。ある自然カメラマンがジャングルに分け入ってサルたちと暮すうち、その1匹がカメラで自撮りしたのだ。カメラマンは写真を発表。それを転載したWikimedia財団との間で論争になった。「写真は自分がお膳立てして撮らせたのだから、自分に著作権がある」とカメラマン。

 この論争がもつれているところへ、第3の団体が参入して写真家を逆提訴してしまう。PETA(動物の倫理的扱いを求める人々の会)という有名な自然保護団体で、「作者はサルであって、著作権はサルにある。そして著作権は自分達が管理して、収益をNARUTOたちの生息地保護に使う」というのだ。火事場泥棒か、と思うかもしれないが彼らは至って大真面目。「自然の権利訴訟」という、いわゆる政策・世論形成型訴訟のひとつなのである。この裁判が9月ついに和解に達して、著作権はカメラマンが管理し、ただし収益の25%は生息地のために使うことになった。アメリカならではのダイナミズムだろう。

 ところで、結局法的には著作権はヒト・サルどっちにあったのか? 米国著作権局や連邦地裁の見解はどちらとも違う。「サルには創作はできない。よってこの写真は著作物ではなく著作権は最初からない」というのだ。……なるほど確かに長らく著作権界の通説は、創作はヒトの特権というものだった。そしてこのサル論争、「AIコンテンツに著作権を認めるか?」という今後の最重要論点に完全につながる(関連コラム:人工知能と著作権 〜機械創作の普及でクリエイターは失業するのか?〜)。

8.星野源「恋ダンス」動画、削除へ

 昨年末の大ブレークドラマ「逃げ恥」(「逃げるは恥だが役に立つ」)。そのエンディングテーマ「恋」を踊る投稿動画が次々削除されるという9月の話題である。ナニ、またJASRACか? いや違う。JASRACはYouTubeなどとは包括契約を交わしているから、実は我々は「演奏してみた」「歌ってみた」などの動画は著作権を気にせずアップロードすることができる。ただ、ここにもうひとつ、「著作隣接権」という権利があるのだ。これはレコード会社などが持つ音源、いわゆる原盤の権利。だから星野源版のような既存音源を動画に取り込んでアップロードする場合、理論上はレコード会社などの許可も必要となるのだ。

画像 ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」より

 ただし現実には「見て見ぬふり」で無断動画が生きているケースも多いし、あっさり削除要請されることもある。その中間を行ったのが今回のビクターで、CDなど正規で購入した音源に限り、8月一杯は投稿動画での利用を認めるというもの。これで「恋ダンス」動画は一気に花開き、数百万再生動画も生まれた。で、9月になると予告通り音声削除などの対応が始まり、かなり話題になった

 万人が発信者の時代。作品はバズってなんぼである。でもずっとオープンでは逆に売れない、とビクターは判断した。まさに現在の知財のキーワード「オープン/クローズ戦略」を地で行った試みは、果たして今後も続くのか?(なお12月には、論点はもっと微妙なのだが、GLAYが「自分たちの音源を結婚式で流す際の著作隣接権は無償・自由」と発表してこれも大きな話題になった。)

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