角川ドワンゴ学園の通信制高校「N高等学校」(以下、N高)は2月5日、学生ベンチャーを育成する「N高起業部」を設立した(関連記事)。入部した学生は、専門家による支援(ヒト)と専用プログラム(モノ)、起業支援金(カネ/年間最大1000万円)が受けられるという。
しかし、誰でも入部できるわけではない。入部には審査があり、「特別審査会」と呼ばれる審査会でプレゼンテーションと審査員からの質疑応答があり、それを突破した最大5組のチームが入部できる仕組みだ。審査員はカドカワの川上量生社長、ドワンゴの夏野剛取締役、SNS media&consultingの創業者堀江貴文氏。その第1回特別審査会が起業部設立当日に行われた。
特別審査会では、N高・通学コースで行われているプロジェクト型学習「プロジェクト N」に取り組んできた7組の学生がプレゼン。「丸をつけるだけの障害支援ノート」や「シェフが訪れたお店を探せるサービス」「和式洋式両立トイレ」などのアイデアが発表されたが、レベルの高いものとは言い難かった。
堀江氏はプレゼンを聞いて、こう酷評する――「正直、微妙なプランが多かった。それと、プレゼンする段階でプロトタイプくらいは作ってほしかった。そうしないと判断がつかない。うちのオンラインサロンだったら1つも合格しなかったと思うが、教育的見地からということで一応5個選んだ。今のままではスモールビジネスにもならないので改良してほしい」(堀江氏)
実際、既に商品として存在しているものが提案されるなど、明らかな先行事例研究不足と、そもそも何がやりたいのか伝わらない(本人も分かっていない)プレゼンが目立ち、審査員の目が特別厳しいというわけではなかった。
堀江氏といえば、インターネット黎明期にいち早くHP制作・管理運営を行う会社を設立したことでも知られる。起業することを特に難しいこととは考えておらず、「ICOやクリプトカレンシー(暗号通貨)が出てきた今、ますます起業は簡単になる」と言う。
「テクノロジーの力で、10代だろうが80代だろうが、いわゆる“働き盛り”といわれる人たちと同じようなことができるようになった。しかも皆さんのほとんどは、法律的に親の保護下にいるのでやりたい放題。最初のプランにこだわらずに、だめだと思ったら柔軟に新しいプランにサクサク乗り換えてほしい」(堀江氏)
同じく審査員である夏野取締役も「この手のプレゼンはよく見てきたが、もうちょっと頑張ってほしかった。似たようなことがどれだけやられていて、この隙を突いたら絶対に成功する、なぜならそこにはユーザーのニーズがあるからといった気迫が感じられなかった」と酷評する。
夏野取締役は21年前に起業。「起業して、失敗して、ひどい目にあった」という。「あのころから環境が変わり、東芝やシャープを見ていると、大企業に勤めているともっとひどい目にあうことが分かる。だから早い段階で1度、『あてにしていたことが全部パーになる』という、起業的なものを経験しておくことが重要。日本は今、一番上場しやすい国。まだ成功していない企業でも、マザーズならいくらでも上場できる。だから高校生のうちに、思いっきり空振り三振か、ホームランかを狙って頑張ってほしい」(夏野取締役)。
川上社長は、自身の体験から起業を甘くはみていない。「特に若い人の起業は取り返しがつかないことが起こる」として反対の立場を貫く。しかし、若すぎる場合はその限りでないと考えを示した。「学生で起業して失敗しても、たかがしれている。将来への素晴らしい経験に至ることも多いのではないかと思い、このプロジェクトに期待している」(川上社長)。
「今日のプレゼンは、非常に厳しいものだと思う。だが、実際に大人たちがやっている起業案も、ほとんどがどうしようもないようなもの。だから厳しいと判断されるような企画が出るのは当たり前。現実は厳しいので、現状に満足することなく頑張っていただきたい。起業は1人でやるものではなく、世の中のいろんな人に手伝って助けてもらわないと成功しない。そのためには、他人をどう説得するかが重要なカギになる。自分が何をしたいのかを説明できること、それに対して実際に努力をしていること、そしてそれを他人に実感として伝えられることが重要なポイントとなる。企画が成功するかどうかは関係ない。残るのは、『この人にかけていいのか』という部分だ」(川上社長)
第1回となるN高起業部の入部審査会は、こうして幕を閉じた。「入部する」という起業への第一歩を踏み出す前に、実際に起業したプロフェッショナルたちの生の声が受け取れる――N高起業部の入口には、そんな機会が用意されている。
(太田智美)
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