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「実は反対派だった」 屋根修理の3代目が“ドローン点検”にアツくなるワケ

» 2018年03月01日 14時50分 公開
[片渕陽平ITmedia]

 屋根の点検にドローンを活用する方法を、業者向けに普及・啓発する「日本屋根ドローン協会」(東京都港区)が3月1日に発足した。ドローンの運用方法を周知させ、作業員が屋根に上る手間や、落下リスク、作業時間を減らす狙い。石川弘樹代表理事(石川商店 社長)は「実はもともと反対派だった」が、今ではドローン点検に“アツく”なっている1人だ。

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屋根が見える安心感

 石川さんは、屋根のリフォームや瓦の修理などを手掛ける石川商店(品川区)の3代目。初めはドローンの使用に懐疑的だったが、試しに使ったところ、依頼してきた客の反応に驚いたという。ドローンを飛ばし、撮影した写真や動画を共有しながら状態を説明したところ、客からは「これがうちの屋根なのか」「これなら一目瞭然」という言葉が。石川さんは「ショックだった」と振り返る。

 「伝えきれていなかった」。点検の際、これまでは自ら屋根に上がり、スマートフォンなどで撮影し、降りた後で屋根の状態を説明していた。一方ドローンは、ほぼリアルタイムで状況を報告でき、軒先など人間の手が届きにくい場所も細かく撮影できるという。

 屋根工事は、客から作業状況が見えづらく「何をされるか分からない」「怪しい」――ドローン点検は、そうした消費者の不安を払拭する狙いもある。

難しいドローン操作、事故の課題も

 点検する側のメリットも大きい。屋根点検は足場や命綱を使わないケースが多く、転落の危険性が高い。厚生労働省によれば、2016年には建設業界で屋根や足場、はしごから転落する事故が846件発生、40人が死亡している。ドローン点検は、こうしたリスクを最小限に抑えられる上、はしごの設置や測量にかかる時間を短縮でき、これまで約2時間かかった作業が10分程度で完了するという。

photophoto これまで屋根点検ははしごを使用していたが、転落のリスクもあった。ドローン転落は、はしごの設置や測量にかかる時間を短縮できるメリットもあるという

 ただ、ドローン点検の導入にはハードルもある。協会の夏目和樹理事は「10時間以上の練習は必要」と話す。夏目理事は、ドローン向けのソフトウェアを開発するCLUE(港区)のCOO(最高執行責任者)を務める。協会はそうした知見を基に、屋根の点検・工事を行う業者向けに、ドローン点検の資格制度やセミナーの機会を設ける考えだ。

 資格制度はドローン操作の研修に加え、飛行前に必要な国土交通省の機関へ許可・承認手続きの案内など、リテラシー向上が狙い。ドローンの落下リスク、賠償責任(保険への加入など)の周知にも取り組む。まず屋根工事の業界団体、全日本瓦工業事業連盟(千代田区)と連携し、2018年度内を目標に立ち上げる計画だ。消費者側は、業者が資格を取得しているかを、点検を依頼する判断基準にできるとしている。

 ドローンの事故を巡っては16年11月、岐阜県大垣市のイベントで機体が落下、3人が軽傷を負うトラブルが起きた。国交省によれば、機体を提供した企業が十分な安全措置を施していなかったという。業種は異なるが、石川さんは「ドローンの認知が進む中、どういった運用が正しいか、情報が錯そうするのではないか」と危惧し、「消費者にも分かるようドローン点検の“理想の姿”を伝えていくことが協会の役割」と意気込んでいる。

photo 前列中央、左から石川弘樹代表理事(石川商店 社長)、夏目和樹理事(CLUE COO)

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