漫画の海賊版を掲載するサイトのブロッキングを、政府がISPに要請する伝えられている問題について、業界団体などから反対声明が相次いでいる。4月12日には、ISPの業界団体・日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)や、婦人団体・全国地域婦人団体連絡協議会、自民党の衆院議員・橋本岳氏などが、声明を発表した。
報道によると政府は、3つの海賊版サイトを指定し、ISPにブロッキングを要請するとされている。これについて「海賊版サイト対策は手詰まりで、ブロッキングやむなし」という考え方もあれば、「ブロッキングは通信の秘密を侵害する違法な手段で、要請は行うべきではない」との意見もあり、11日以降、後者の立場の業界団体から、声明が続々と発表されている。
JAIPAは12日に出した声明(PDF)で、「ブロッキングはISP事業者が、権利侵害行為と一切関係のない人を含めて、ネット接続サービスのすべての利用者を対象に、Webサイトのアクセス先などを監視して、一部の通信を遮断する方法」だと整理した上で、「電気通信事業法が禁止する通信の秘密の侵害にあたる行為」指摘する。
ISPによる児童ポルノ画像のブロッキングは行われているものの、「『緊急避難』に当たるものとして厳格な要件と適正な手続きのもと、ISP事業者の自主的な取り組みとして実施」しており、「当時の政府の立場も、通信の秘密への国民の懸念に対して、児童ポルノ以外に要請を広げることはないというもの」だったという。
一方、今回の政府の「要請」について、「法的根拠はなく、ブロッキング以外に取りうる手段などの議論を十分尽くしたともいえない中で、事実上権利者団体と政府だけでの結論を押し付けることは、通信の秘密の最大の当事者である国民の理解を得られるとは考えられない」とし、政府が特定のサイトへの遮断を求めることは「憲法が禁止する検閲に当たるおそれもある」と懸念。「断じて許されない」と強い調子で反対している。
国内のIPアドレスの管理を行う日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)も声明を発表。「ブロッキング等の意図的な通信制御は、可用性の低下を招く危険性があり、結果として、インターネットの円滑な運営が損なわれることがある」と指摘。「法的・技術的見地に基づく慎重な検討、厳密な要件の適用が必要だ」と主張している。
通信関連団体ではこのほか、安心ネットづくり促進協議会や、ネットのオープンアクセスを推進する非営利団体のInternet Society 日本支部も12日に反対声明を発表。また、11日には、児童ポルノのブロッキングに協力している通信団体・インターネットコンテンツセーフティ協会(JAIPAなどが理事を務める)や、青少年向け携帯サイトの審査を行うモバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)なども、海賊版ブロッキングに反対する声明を発表している。
ネットに関する研究・運用を行う産学連携の「WIDEプロジェクト」も11日に海賊版サイトへを批判する声明を発表したが、ブロッキングの是非には触れていない。
婦人団体の全国地域婦人団体連絡協議会(全地婦連)や、全国消費生活相談員協会も12日、ブロッキングに反対する声明を発表した。全地婦連の声明(PDF)では、ブロッキングの法的問題を指摘した上で、実効性を疑問視しているほか、今回の要請が「通信の秘密を侵害される当事者である私たちユーザーの声を一切反映していない」とし、海賊版対策は、ユーザーを交えた議論の上で対策を決めるべきだと主張する。
また、自民党の衆院議員・橋本岳氏もブログで懸念を発表。「海賊版サイト対策は検討され実施されるべき」だが、政府が特定Webサイトへの接続をしないことをISPに要請すことは、憲法が禁止する検閲や通信の秘密の侵害に当たる可能性や、実行したISPが電気通信事業法違反に問われる可能性があると指摘する。
あえて行うならば「新規立法を行う手順を踏むべき」と主張。政府は、立法が行われるまでの間、児童ポルノのブロッキングと同様、刑法上の「緊急避難」を理由に海賊版ブロッキングを行うとも伝えられているが、「児童の人格に対する侵害と、著作権法に基づく財産権の侵害は、同列に扱うべきではない」「それを許せば、今後さらに拡大し得る前例となりかねない」と批判。さらに、政府が提出した法案は必ずしもスケジュール通りに成立すると限らず、「政府が『立法をするからそれまでは緊急避難で』などという表明をすること自体が、立法府たる国会の軽視も甚だしい」と批判している。
海賊版ブロッキングについて12日、橋本議員が党内の情報通信関係の議員数人に確認したところ「知らない」という反応が大半で、与党対策も不十分だったとし、「政府は、残念ながら与党に対しても本当に軽く考えておられるのだなあと嘆息を禁じえない」と落胆。ブログを通じて意見を表明することで、「世論に対して政府の非を訴えたい」としている。
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