植村教授は、「昔の枠組みはもう効いてないので、既存の出版社でどうかしようという議論はもういいのでは。これからの漫画家は自分でどうしていくかを考えないと、出版社はだめだよねという話で終わってしまう」と警鐘を鳴らす。
それに対し、フリーランス編集者の仲俣さんは「作家1人で全部やれというのはロマンチシズム」と語る。「出版産業は、戦後は上り坂で出版社と作家の利害が一致していたが、下り坂にある今は両者の利益は相反せざるを得ない。編集者は作家のために動くのか、会社のために動くのか。そんな中、作品流通など含めて出版社と作家の間に立ち、作家をエージェント的に支援する人が求められる」(仲俣さん)
鈴木さんは、AmazonのKDP(Kindle Direct Publishing)を利用した電子書籍の「セルフパブリッシング」で成功を収めるなど、作家の枠を越えた試みでも注目を浴びていた。他にも、無料電子漫画サービス「マンガ図書館Z」を運営する赤松健さんや、Web雑誌「マンガonウェブ」を運営する佐藤秀峰さんなどが漫画家の枠を超えて活躍している。また、漫画家、小説家、エンジニアなどのクリエイターのエージェント事業を担うコルクのような会社もある。
作家を支えるエージェントの存在については、森田さんも歓迎する。「(鈴木さんを見ながら)僕たちは自分たちでいろいろできるからいいが、漫画家は作品を描く以外の(流通や宣伝のような)ことが苦手な人が多い。そんなエージェントのように振る舞える人がいるといい」(森田さん)
出版社への不信感もある。森田さんは「作家は大事にされていないのではと感じることがある」とし、「大手出版社で条件交渉をしたときに、そんなことは漫画家が考えることじゃない」と言われたという。自らの活動を支援するエージェントへ期待を寄せる漫画家は少なくないだろう。
漫画家の立場から見ると、海賊版サイトの存在にかかわらず、これからの漫画市場を盛り上げていくためにエージェントの存在は需要がありそうだ。では、海賊版サイトという巨大な敵に立ち向かうためにはどうすればいいのか。
イベント内では「出版社を仮想敵にする必要はない」「むしろ漫画村を取り込めばいい」という声も上がった。それは一体どんな方法なのか。近日公開の別記事で紹介していく。
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