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家電をつなげた先にあるもの 日立アプライアンス徳永社長に聞く“コネクテッド家電”の今と未来(3/3 ページ)

» 2018年05月11日 11時00分 公開
[山本敦ITmedia]
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 複数のコネクテッド家電が家の中にある場合、ホームネットワークで連携して新しい機能や価値を作り出す可能性もあるのだろうか。徳永氏は、今はまだ実現できていないが、将来その可能性は十分に考えられると話す。ただ、そのためには検討すべきポイントがあるという。

 「家庭にある家電が日立ブランドでそろっていないこともままあることです。ブランドの異なるコネクテッド家電をホームネットワーク上でつなぐプラットフォームとして、私たちは実績のあるGoogleやAmazonの技術にも注目しています。ロボット掃除機のminimaruの新製品をAmazonのスマートスピーカーに対応させた理由も、家電製品をスマートスピーカーを経由して、そこからさらに他社のクラウドサービスにつながりながら新しい価値をご提案することが大事な要素の1つであると考えたからです。日立はコネクテッド家電をセキュアに活用するための技術を持っているので、そこを起点に独自性のある顧客価値が生み出せると思っています」

 一方、テクノロジーの力で便利なサービスを提供できるとしても、それに“任せきり”にするべきではないということも漆原氏の話を通じて見えてきた。

 「例えば家族の食事を作るお母さんから見れば、家電によるITテクノロジーを活かした機能で“あとはボタンを押すだけ”で料理が手早くできてしまうサービスは、すべてが手抜きに見えてしまうものは歓迎されない場合があります。最後のひと手間は自分でかけたい、自分で作った料理を家族にふるまいたいという、人の感情・心理的な部分と調理家電をはじめとするホームアプライアンスは深く結びついています」

IHクッキングヒーター「火加減マイスター」(HT-L350T)。調理家電はお母さんの心情とも深く関わってくる

 ITテクノロジーの力は黒子に徹し、さりげなくユーザーの豊かな暮らしをサポートできる製品やサービスにヒットの可能性が秘められているということだろうか。

LPWAの可能性

 今春、パナソニックはNTTドコモと協力して「LPWA(Low Power Wide Area)」の通信技術を活用して、消費電力や通信の負担を抑えながら、より手軽にスマート家電やIoTデバイスをホームネットワークにつなぐ商品構想を立ち上げた。2018年秋をめどに実証実験を実施することも明らかにしている。

 国内では家電のネットワーク接続に対して消費者のマインドがいまだに消極的であると言われているが、日立の新たな通信技術への見解を徳永氏に訊ねた。

 「ネットワークにつなぐことのハードルを低くすることについてはLPWAの技術研究は大きな意味があると受け止めています。ただ、一方で私たちメーカーが本質的に注力すべき点は顧客価値を創造すること。ネットワークにつなぐこと自体は“手段”です。もし現在何らかのスマート家電の普及を妨げている要因がそこにあるとすれば私たちも同じように解決のために力を注ぐつもりですが、もし課題がネットワークにつながった先の体験をリッチにしていくことの方にあるのだとすれば、そこを開拓することにリソースをかける必要があります。いずれにせよ、まだ慎重にこの先の動向を見定めることが大事だと考えています」

 今後、コネクテッド家電によってもたらされるスマートな体験を、自社製品の差別化を図るためにクローズドなものにしていくのか、あるいはユーザーの利便性を重視して他社製品とのコネクティビティも加えるのか。徳永氏は前提として付加価値をどこで作り出していくのか、戦略的な視点を明快にしていくことが必要だと説く。

 「日立が単独で提供できる機能やサービスであれば、あえてオープンにする必要はないと思います。一方で、複数メーカーのコネクテッド家電が連携することで初めて使える魅力的なサービスがあるとすれば、プラットフォームをできる限りオープンにして多くのユーザーに使ってもらうべきです。あるいは一部のインタフェースだけを互いに開示し、便利な機能をユーザーの皆様に使ってもらうという考え方もあるはず。日立としてはこれからの変化に対して柔軟に対応できる体制を整備しておくことが肝要と考えています」

高価なコネクテッド家電は「リース」による提供もあり得る?

 コネクテッド家電は一度体験してみない限り、その価値がユーザーに正しく伝わりづらいところがある。多くの人々が気軽に体験できる場を広げていくことが普及を押し進める活路になるだろう。徳永氏は、現在の店頭展示をより高度化しながら、コネクティビティがもたらす利便性を体験の深いところにまで落とし込める店頭展示を実現していきたいと述べている。

 徳永氏はまた、現在のコネクテッド家電には高価な製品も多いため、メーカーとしては買い切り型で販売するだけでなく、一定期間に渡って賃貸するリース型のモデルを提供する可能性を示唆した。

 「例えば海外ではアパートやマンションに入居時から家電が備え付けられていて、賃貸料の中に家電のリース料金が組み込まれているようなビジネスモデルもあるようです。今後スマート家電が世界各地域でどのように受け入れられて発展を遂げるのか、注意深くトレンドを見ながら普及に力を入れたいと考えています」(徳永氏)

 ネットワークとセキュリティの先進技術を武器に、国内の社会インフラ構築を力強く支えてきた日立だからこそ、多くのユーザーが安心して使えるスマート家電やコネクテッドサービスをかたちにできるのかもしれない。同社はまだその第一歩を踏み出したばかりだが、これから誰もがその利便性を実感できる日立らしい製品が次々と生まれることを期待したい。

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