「労働力不足の日本で、AIと人間の協働は不可欠」――アクセンチュアの保科学世さん(デジタル コンサルティング本部 マネジング・ディレクター)はこう話す。少子高齢化でますます労働力が不足していく日本では企業のAI(人工知能)活用が不可欠だが、労働者のAIへの理解や取り組みが世界各国に比べて遅れており、今後は企業の意識改革や新たなスキル教育が必要になってくるという。
同社がここで定義するAIは、(1)自然言語を理解し、質問に対して回答を行う技術のコグニティブテクノロジー(認知技術)、(2)膨大なデータから経済的価値を抽出するアナリティクス、(3)ロボットの設計・構築・実装や運用に関する技術であるロボティクス、の3領域を指す。
保科さんは「2030年には日本で900万人の労働力が不足するとされており、企業のAI導入はむしろポジティブに捉えるべきだ。このままでは経済成長を望めないが、AI活用での伸びしろは高い」と話す。しかしAIとの協働を考える上で越えなければならない壁も多い。保科さんは、これから日本企業がやるべきこととして、(1)業務プロセスの再考、(2)教育機会・コンテンツの提供、(3)コラボレーションの活性化、を挙げる。
業務プロセスの再考については、人間とAIの得意分野を踏まえた上で、両者がどのように協働すると高い成果を見込めるかを見直すことが重要になる。
人間は、課題定義、共感、抽象的問題の取り扱い、柔軟な対応などが得意。AIは、処理のスピード、大量データの解析・検知、知識量などが優れている。例えばカスタマーサービスでは、人間のオペレーターが顧客と会話し、会話に応じた情報をAIが提供するといった役割分担をすることで顧客満足度アップが見込めるという。
中でも保科さんは、世界的に見て品質が高いとされるが、労働力が不足しているサービス・接客業での可能性を見いだす。AIの進化には学習用のデータが不可欠だ。「日本のサービス・接客は世界最高水準。高品質で膨大なデータを学習させたAIが実用化できれば世界に通じるものになるだろう」(保科さん)
また、頭脳に当たるAIだけでなく、手足に当たるアクチュエーターの開発・製造技術でも、ファナック、安川電機、川崎重工など優れた技術を有する日本企業は多い。これらの強みを考慮した上で、日本独自のAIや協働モデルを模索すべきというのが保科さんの考えだ。
人間とAIの協働時代を見据え、新しいスキルの学習を強化する必要性も出てくる。保科さんは、AIを開発・活用する上で重要な、統計・数学、プログラミング、アルゴリズム活用法などを「表層的なAI教育」とし、「重要かつ絶えず学ぶべき内容だが、AI教育の一部にすぎない」と述べる。
一方で、AI教育の初期段階で理解・習得すべき内容として、(1)解決すべき社会課題、(2)AIに解かせる課題・論点、(3)人間が解くべき課題・論点、などを挙げ、「これはAI教育の根幹で、絶えず意識すべきこと」とした。
アクセンチュアは、大学・研究機関、企業と共同でAI人材を育成する組織「サーキュラーエコノミー推進機構」を設立。産学連携でデータサイエンティストの人材育成を行う基盤作りを進めている。
また、企業価値向上を加速するには社外とのコラボレーションも重視すべきという。「日本は世界の先進国と比べ、AIへの意識・取り組みが遅れ、AIに対して漠然とした不安を抱いている人も多い。日本ならではの強みを生かし、ポジティブに取り組むべきだろう」(保科さん)
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