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「いじめ」と戦うLINEの執念(2/2 ページ)

» 2018年10月10日 11時43分 公開
[小寺信良ITmedia]
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 本当か。事件直後に行われた中学生へのアンケート調査には、「亡くなった子のために、何が真実か知りたい」という意見が多数書かれていたという。大人が勝手に配慮するのではなく、子供がどう思っているのかが大事なのではないか。

 こうした思いから、2013年に「大津市子どものいじめの防止に関する条例」が施行され、本格的な取り組みの一歩を踏み出すこととなった。

 現在大津市では、年間2億3000万円という予算を計上して、全ての学校にいじめ対策担当教員を配置している。これにより、いじめの発覚件数は、過去1年で55件程度であったものが、2000件に増えたという。

 もちろん、教員が把握できるものがすべてではなく、中学生ともなれば、自分がいじめられていることを人に知られたくないため、誰にも相談せずに一人で抱え込むケースが増える。こうした課題を解決するために、子供たちが常日頃から慣れ親しんでいるLINEが使えるのではないかとして、LINEのいじめ相談受付を2017年11月からスタートさせた。

photo 中学生では、「誰にも相談しなかった」が約40%に上る
photo 相談しやすい窓口は、小学生では対面、中学生ではLINEやチャットが最多

 子供たちがLINEで相談をする際に、実際に対応するのは公益財団法人関西カウンセリングセンターである。現在ここが日本で一番多くのLINEによる相談を受け付けており、またLINE相談の特徴について、早期から研究して来た機関であるという。

photo 大津市が広報を担当し、オペレーションは関西カウンセリングセンターが行う

 LINEで相談を受けるカウンセラーは、スマートフォンではなくパソコンで対応する。一つの相談に対して複数のカウンセラーで対応を協議できるからである。

 大津市では実質約1年、LINEによるいじめ相談を運用してきたが、電話相談等の窓口と比較すると、対応回数で約3倍、対応人数は約5倍に増加した。

photo 電話等とLINE相談の比較

 こうしたLINE相談の結果は、2カ月に1度の検証会議で報告、分析される。この検証結果から得られたLINE相談の特徴は、3つある。

1.中学生にとって相談のハードルが低い

2.早い段階で相談していると思われる

3.LINEでも心理援助ができる可能性がある

 現在の中学生は、通話に慣れておらず、電話相談にはハードルがあるのではないかと思われる。一方で普段から利用頻度の高いLINEなら、気軽に、早期に相談へと移行できる。

photo LINEのリッチメニューを導入し、相談までの導線を最短化する

 一方で、電話と違い、文字ベースでは声のトーンなどから気持ちを推し量ることができないのではという懸念があった。しかしこれはカウンセラーが経験を積むこと、それをテクニックとして共有することで、子供の気持ちを受け止められるようになるだろうと予測している。

SNSは「なくてもいいサービス」か

 「LINEいじめ」なる言葉が、事実と離れて一人歩きし始めた背景には、現在の状況が可視化される「スクリーンショット」の存在が大きかったのではないだろうか。初期の「LINEいじめ」と言及されたTwitterにはスクリーンショットが貼られており、LINEの未読が1000件以上あるもの、逆に返信がスタンプ1個といった状況を、おもしろおかしくLINEいじめと称していた側面もある。

 一方でコメントのやり取り状況や返信のタイミング、既読や未読といった状況から、その背後で何が起こっているのかを変に想像してしまう、気を使いすぎる子供たちの現状もまた、垣間見えるような気がする。

 パソコン通信時代は、オンラインとオフラインの境目がはっきりしていたものである。そもそも人間関係は、オンラインでしかなく、オフラインで実際に会うというのは、特別なイベントだった。

 だがスマートフォンで常に繋がりを要求される子供たちには、オンラインとオフラインの区別はない。すべてがリアルとして存在するだけである。息が詰まるようなギュウギュウの人間関係の中で、一度破綻が始まったら自分ではリカバーできないということは、容易に想像できる。

 そこに、第三者が加わって風を送り込んだり、利害関係の無い人に相談して気持ちを整理するというだけで、自死願望から戻ってこられる可能性があるのだとしたら、駆け込める間口は大きい方がいい。

 いっぽうでいじめ後の処置だけしていても、抜本的な解決にはならない。誰もつらい思いをしなくて済むためには、いじめの前段階での教育が必要だ。ここに対してもLINEは、多くの講演を行うだけでなく、学校で先生自身がネットリテラシー教育に取り組めるよう、無償の教材提供や研修事業に注力するという。

 こうした努力が実を結ぶとき、これまで「なくてもいいサービス」と言われてきたSNSが、いじめ問題を解決できる手段となる。LINEはその道筋に、一番近いかもしれない。

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