製造業のIT部長と言えど、システム開発現場からのたたき上げから、ジョブローテーションによるお飾りな人までいろいろ。年功序列が残る組織であれば、おおむねIT部長の年齢は50代ぐらいでしょう。老眼と戦いながら家族とLINEするITリテラシーはあれど、AIについて詳しいわけではありません。
「ウチもそろそろAIに取り組まないと、先を越されますよね」と、同業他社の動向を気にするのが精いっぱいです。「こんなこともあろうかと」と、「ファクトリーAIストラテジープラン2022 Limited Edition 2nd GIG」をさっそうとプレゼンできる有能キャラではありません。
そこでIT部長は権限と予算を使い、外部からお知恵を拝借するのです。戦略系コンサルタントを呼んで、自社のAI導入について相談しつつ、提案資料を作成してもらいます。
なぜ高いお金を払って、コンサルティング会社に依頼するのでしょうか? 理由の1つとしては「失敗しても責任転嫁できるから」です。自分で全て考えた案が失敗すると責任問題になりますが、第三者の意見も取り入れた案なら、責任を分散出来ます。コンサルティング会社にとっては迷惑な話ですが、社内政治的にはベテラン監督の冴え渡る名采配といえるでしょう。
そんな事情を知る由もないコンサルティング会社ですが、「工場の品質検査におけるAI活用」を提案しました。品質検査は人間の目で調べる必要がある作業で、工場では人材確保や後進の育成に苦心しています。
しかし提案内容をよく見ると、画像撮影のためカメラを設置し、データベースを新規構築、さらには高額なデータ分析ツールの導入など、予算と意識が高すぎる内容でした。品質検査における人件費を削減しても、設備投資に見合った成果が得られそうにありません。
結果、予算を大幅に削りながらギリギリでAI導入と言い張れる内容を残し、一応の計画がまとまりました。こうして方針が決まり、導入する工場に向けて話が進みます。
さて、工場へのAI導入が決まりましたが、誰が開発するのでしょうか。社内のIT担当者でしょうか。IT担当は社内システムの運用が主な業務で、1からAIを開発できるエンジニアではありません。
また、現場作業員には「なーにがAIだ! 現場ってのは長年培った勘と経験が大事なんだ!」と主張する頑固な職人もいます。自力でAI開発できないIT担当者は、現場の協力も得られないけど、上から言われたのでAI導入を進めないといけません。
こんなときに登場するのが、大手SIerです。「大学生の就職先人気ランキング」で上位に入る、電話や電機の名前を冠した大手システム開発会社を思い浮かべてください。
大手製造業では、グループ会社や特定のSIerが社内のシステム開発や導入を担っているのが通例です。長年に渡って社内のシステム開発を請け負っているので、「人間の目で判断している不良品検知をAIに置き換えたい」ぐらいのざっくりした依頼でも、何とかしてくれるでしょう。
さすがはサザエさんの三河屋並の親切心と配慮を併せ持つ御用聞き集団です。大手SIerとしても、楽に仕事を受注できる顧客を逃がす理由はなく、“いつもの感じで”AI導入案件を請け負いました。
ここまでの主要な登場人物を整理しましょう。工場の現場作業員、工場のIT担当者、外部のSIer――つまり現場をよく知る職人、工場の業務を把握したIT担当、AIに詳しい外部の技術支援担当者の3者でチームを組んでAIを導入するようです。
しかし、この関係はあくまで理想形です。実際、ここから先がどうなっていくのか、詳しく見てみましょう。
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