しかし今年2月、SAPを新規事業創出部として自らの直轄組織に置いて支援してきた平井一夫氏(現会長)から、吉田憲一郎氏に社長のバトンが引き継がれた。これからのSAPがどうなるのか気になる人も多いかもしれないが、小田島氏は「吉田社長の強力なバックアップを得て、これからSAPはさらに加速していく」と力強く答えた。そして、これまでの4年間の活動を「SAP 1.0」と位置付けるのであれば、これからは「SAP 2.0」にステージアップするという。
「SAP 2.0を簡単に説明すると、社外とのオープンイノベーションを本気で推進していくということ。今年11月には私が統括部長を務めるOpen Innovation&Collaboration部を立ち上げました。ヒントになったのがベンチャーキャピタルのWiLと組んで進めたQrioの事例です。同様の試みを社内だけでなく、社外の才能ある方たちと積極的に実現していきたいと考えています」
SAPとして蓄えてきたノウハウを、社外のパートナーに声をかけながら事業を共創していく「SAP 2.0」。育成するプロジェクトの基準については、ソニーが事業分野として確立していない分野にチャレンジをすること、ソニーのビジネス戦略として価値のあるもの、還元する要素を持つ事業を育てることであることに変わりはない。
新設したOpen Innovation&Collaboration部の活動については、「まずはSAPの活動を広めるイベントを展開するなど、情報発信に力を入れていきたい」という。今はソニーの社内に構えているCreative Loungeのような共創スペース、あるいはSAPのショールームとしての機能も持つ場を今後はさらに増やしていく計画もあるようだ。First Flightのサイトも12月にリニューアル予定で、新規事業支援サービスのアナウンスを積極的に展開するという。
事業の種=SEEDとなるアイデアを早い段階から発掘する活動にも力を入れて取り組む。例えば沖縄の次世代リーダーを発掘・育成するNPO団体・Ryukyufrogsの活動をスポンサーとして支援したり、ソニーが今年4月に人工知能とロボティクスに関する研究開発契約を締結した米カーネギーメロン大学の学生によるアイデアをバックアップする体制も整えた。
「ソニーとして、またSAPとしても、組織的な投資を行いながらユニークなアイデアが生まれる土壌を耕し、意欲にあふれる方々と共創して良いもの世に送り出したり、また社会とのつながりをアシストしていくことにも貢献していきたいです」(小田島氏)
一方で小田島氏は「最初からシナジーを求めすぎるとうまくいかないことも承知している」とも話す。「既存の事業に貢献することだけを目的にスタートアップの芽を見つけようとすると、そのスタートアップが元から持っている良さが失われてしまうこともあります。始めからシナジーばかりを期待せず、もし将来伸びてきたら、そこにソニーがどう関わりを持てるかという視点でパートナーを見つけて支援したいと考えています」
小田島氏は、これまでにSAPから巣立っていった事業の中心には「やる気と意欲」に燃える起業家の姿があったと振り返る。どんなアイデアも会社の事業として育て上げるまでには相当のパワーが要る。幾度の困難にぶつかっても投げ出さずに立ち向かい、自ら壁を乗り越えようとする情熱、そして謙虚さや柔軟性も起業家に求められるものだという。
「これからもSAPの主役は事業に取り組む方々であることは変わりません。今後も熱いベンチャースピリットを持つ起業家と加速支援者が互いに信頼関係を築きながら、よい雰囲気の中で事業を盛り上げていける環境を作っていきたいです」(小田島氏)
詳細はまだ明らかにできないものの、外部企業の新規事業部門と連携したSAPの新しいプロジェクトも進行中だという小田島氏。来年もSAPから面白い製品やサービスが次々に生まれてくることになりそうだ。
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