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空想と現実の狭間に 「電脳コイル」で考える近未来の脅威アニメに潜むサイバー攻撃(3/7 ページ)

» 2018年11月30日 08時00分 公開
[文月涼ITmedia]

F: 真面目な活用例を考えると、これは子どもに限ったことではないのですが、見ているもの、聞いているものに対する情報を付加するAR機能が考えられると思います。

 例えば昆虫採集のとき、昆虫を見たら名前や生態が分かる。植物やキノコを見たら食べられるかどうかや調理法が分かる。森を歩けば鳥の鳴き声を検知してどの鳥がいるか写真付きで表示される。つまり、昔でいえば図鑑や事典で調べる作業がなくなって、全てリアルタイムに提供されるようになるでしょう。

photo (C)磯 光雄/徳間書店・電脳コイル製作委員会

K: まあ、それは当たり前にも思える未来ですよね。

F: それだけともいえませんよ。例えば、デジタルカメラの登場により、カメラマンの修行が従来3年以上かかったものが3カ月で済むなんて話があります。行動を起こしてから結果を得て、それを反映してまた行動をするというサイクルが、デジタルカメラの登場によって圧倒的に早くなったからです。フィルムカメラは現像するまで結果を得られませんでしたが、デジタルカメラはその場で結果を得られるからですね。

 同様に、昔なら写真を撮るなりスケッチするなりして家に帰り、事典で調べるという作業が必要だったのが、ARグラスがあればその場で完結します。そうなると脳が非常に刺激され、知識が刻まれやすくなるわけです。

 昔、クラスに「○○博士」なんていう友達がいたと思います。その“博士クラス”で、すさまじく自然全般に対する知識がある子どもたちが出てくるかもしれません。

 またARグラスを使って、現在位置を示す地図を空間上に表示できれば、いちいち紙の地図やGPS機器を見ないで済むので、素早いリアクションができるでしょう。GPSが登場して地図が読めない子どもたちが増えたともいわれますが、逆に地図と連動したモノを常時見ると、地図から多様な情報を先読みできるようになるかもしれません。

K: 劇中の子どもたちの暗号屋(ハッカー)っぷりも、そんなところに秘訣があるのでしょうか。

photo (C)磯 光雄/徳間書店・電脳コイル製作委員会

F: 一応プログラミングらしきことをしているシーンもありましたが、ハッキングなりプログラムなりを、現実世界で「メタタグ」のお札を使って体を動かして行うことは、先ほどの高速な反復と同じように、多元的に脳を刺激することになり、知識に対する理解の促進もあると思います。

K: 多元的に脳を刺激する?

F: そうです。単純に文字の羅列よりも、GUI(グラフィカルユーザーインタフェース)でブロックのように積み上げていくプログラミングの方が脳を刺激する要素は多いですし、行動まで加味するとより脳を刺激するようになるはずです。英語を覚えるときに身振り手振りしながら話す、なんて方法がありますよね。そうすると、覚えた情報を思い出すときの手掛かりも多くなるわけです。メタタグを使うシーンは、まさにそれを想像しました。そうすることで比較的年少でも、複雑なプログラミングやハッキングが可能になるのではないかと。

 よく若くして世界の全てをハッキングできるハッカーが登場するストーリーなんかを見ると「ありえねーよ」と笑いますが、電脳コイルはそうは思いませんでした。彼らの能力や、やっていることはすんなり受け止められました。

K: なるほど。

F: で、当然こういったものを、悪意のある人々が放っておくわけがないのです……。

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