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空想と現実の狭間に 「電脳コイル」で考える近未来の脅威アニメに潜むサイバー攻撃(5/7 ページ)

» 2018年11月30日 08時00分 公開
[文月涼ITmedia]

F: そこは、そもそも電脳メガネを開発したコイルス社が作っていた空間。5年前のコイルスの倒産後、メガマスに功績を奪われるとともに事業を引き継がれ、その過程で何かを隠蔽するため遺棄されたものでした。このあたり、4年前に1つ事件があり、その時のプレイヤーである、ヤサコの祖母であるメガばあ、ハラケンの叔母である原川玉子、そして、コイルス社の開発者で失意のうちに失踪した人物の息子である猫目宗助が、それぞれの思惑でストーリーに横糸を通します。

 あっちの世界は、現実の世界とオーバーレイされる電脳空間と異なり、隔離された仮想空間のため、人の意識を体から切り離して電脳体にし、下手をすると帰ってこれなくなる「電脳コイル」現象を起こすことになります。その中でヤサコは自分の記憶にあった神社が、現実の世界ではなく「あっちの世界」にあることに気付きます。電脳生命体「ヌル」が襲い掛かり、空間が崩壊する中で、それぞれが目的の人に会えるのか、帰って来れるのか、そして「あっちの世界」とは何なのか。このあたりはストーリーの肝であり、とてもこのページ数では語り尽くせないので、ぜひ本編を見てください。

photo (C)磯 光雄/徳間書店・電脳コイル製作委員会

F: そして「あっちの世界」にまつわる話の私の感想は、本当に子どもの頃のさらに深い不思議体験を思い出させるもの、という感じでした。

K: さっきの、あったはずのものがないとか、存在しない路地とかですか?

F: それは現実とリンクしたあやふやな記憶、いってみればARですが、それ以外にも、ARに対してVRのようなものもあります。たぶん夢だと思うのですが、どこにあるか分からない場所を旅した極めてリアルな記憶とか、窓の外から手招きされたので外に出ようと思ったら、一瞬で景色が変わってそこから空を飛んだことだとか、あきらかにフィクションであるのに、大人になってあらためて振り返るまでは現実と思い込んでいたものです。

 いまでこそ大人の知識があるので、論理的あるいは物理的にそういったものを分析すれば、現実の記憶かそうでないかは分別ができます。しかし子どもの頃はそういう記憶も現実世界の記憶と共に、分け隔てなく「同じ記憶」なんですね。

K: んん? それは何かサイバー攻撃に関係があるんでしょうか?

F: 人間の脳にとっては、現実も夢も等しく経験。記憶を司る脳の部位がストレージ、体が情報を生み出すデバイス、また夢や想像を司る脳の部位も情報を生み出すデバイス。ストレージにとっては、両デバイスが生み出すものは等しく情報であり経験でもあるわけです。子どもの頃はこの情報を読み出す時に、知識や経験によるフィルターが掛けられないので、全部同じ「経験したこと」になるわけです。

 ということは、脳に対して情報を送り込む――劇中であれば、電脳メガネの隠し機能「イマーゴ」の用途としてあった、心理治療のような手法に対し、攻撃を仕掛けられれば、対象に何らかの思い通りの行動を起こさせることもできるんじゃないでしょうか。電脳メガネが実現しなくても、もう少し付け心地のよいVR(仮想現実)グラスが登場したら、それを付けたまま“寝落ち”する子どもなんて、それこそ星の数ほど出てくるでしょうし。

 前半に出てきた電脳ペットを狙った攻撃はまだ「こういうことに注意しなさい」といえます。ですが、そうやってすり込まれた、本当かどうか区別がつかない記憶は、注意しようがないわけです。

K: え? なぜですか?

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