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空想と現実の狭間に 「電脳コイル」で考える近未来の脅威アニメに潜むサイバー攻撃(6/7 ページ)

» 2018年11月30日 08時00分 公開
[文月涼ITmedia]

F: その時はそれがまさに「現実」だからです。それに注意しろというのは、いまKさんに向かって「ここは現実の世界じゃない。おまえは夢の世界にいるんだ。全てうそだ」というようなものです。そういわれたとき、判断できます?

K: ええ???? ええええ???

F: いつから私が原稿を書いていると思った? あれはうそだ!

K: ぎゃあああああ!?

F: ……(ニヤリ)。世の中には子どもを誘導して死に至らしめる「青い鯨」というゲームのようなものが存在します。起きている状態での心理的な誘導なのですが、子どもの精神的な構造に食い込んで徐々に支配し、最後は自殺に至らしめます。

 これを、寝ているように見えておそらく脳だけは起きている状態で、仮想空間を舞台に相手にイメージを送り込んでいけば、より確実な攻撃を行えると思います。寝ているのと近い状態は、PCでいえばファイアウォールがない状態。より外部からのメッセージを取り込みやすくなります。それにコンテンツを見ているだけならば、機器やシステムをハッキングする必要がありません。それこそ「いじめに遭っているあなたを慰めるリラックスアプリ」なんて名前でもいいわけです。

F: (ほっぺたをつねりながら)そんなアプリ、リリース前の審査で引っ掛かるのではないですか?

K: 現在のターゲティング広告のすごさを覚えていますか? いくつかの質問や、Webの閲覧履歴、メタ情報から相手の望むものを導き出して、的確な広告やメッセージを打ち込む。そのスキルがあれば、特にこういった暗示にかかりやすい人間だけを選別して、処理を分岐させることもできますし、映し出すものがテキストや画像、動画だけで、さらに個々人別々のものならばチェックにも引っ掛かりません。後は「誰にも言っちゃいけないよ。言うと救われないよ」とすり込めばいいわけです。

 人間と密接なIT機器には、常にこういった危険性があります。トラブルを起こさないためにも、備え、防ぐことが必要になるわけです。

K: そ、それって洗脳なのでは?

F: まあ、悪用すればそうですね。だからといって「こういった電脳メガネなどは危ないから禁止しろ」とは言いたくはありません。それについては、この後に説明しますが、その前に「青い鯨」について少しだけ追記します。

K: 何でしょう?

F: サイバー攻撃の場合、攻撃にコストが掛かること、お金がもうからないことは、1つの防御手段になります。しかし「青い鯨」を作った人は、断定はできませんが、金銭目的ではなく、悪質な「試したい」「面白いからやる」といったことが動機と思われ、サイバー攻撃のコストにまつわる防御が効かない相手です。サイバー攻撃には一定数こういった、結果や影響を想像せずにやってしまう人、愉快犯がいます。ですから「お金にまつわるものではないから大丈夫」とは油断しないでほしいと思います。

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