ポケベル全盛期、わたしは女子高生だった
ポケベルがついに終わる。来年9月に全サービスが終了するという。
筆者の青春は、ポケベルとともにあった。1978年生まれの筆者は、ポケベル全盛期の90年代半ばに女子高生だった。
ポケットベル、略してポケベル。女子高生たちはもっと略して「ベル」と呼んだ。アクセントは「ル」につく。
ポケベルが、鳴らなくて
ポケベルは、モノクロディスプレイと通信機能を備えた、小さな四角い端末だ。各端末が電話番号(「ベル番」と呼んだ)を持っており、その番号に電話をかけた上で、電話のテンキーを使って数字や文字を入力して♯を押すと、入力した数字や文字が相手のディスプレイに表示される。
メッセージが届くと、着信音が鳴る。受信専用で、送信はできない。当初は数字だけしか表示できず、後になってカタカナや記号の送信に対応する機種が出た。送れる文字数は少なくて、14文字ぐらい。送った側は入力した文字を確認できないので、間違いなく送るにも、それぐらいの文字数が限界だった。
90年代半ばの女子高生にとっては、今のスマホに当たるものがポケベルだったと思う。友人同士や恋人と、リアルタイムで直接つながれる唯一の手段がポケベルだった。
わたしたちの世代は、ポケベルと聞くとすぐに、「ポ~ケ~ベ~ルが~ 鳴らなくて~」という歌が浮かぶ。「ポケベルが鳴らなくて」というヒット曲のサビだ。93年に放送された同名ドラマの主題歌。ドラマよりも、この歌の方がヒットした。カラオケでよく歌った。
夢中で打っていた
「0840」(おはよう)、「0833」(おやすみ)、「14106」(愛してる)――。数字しか表示できなかったころは、数字の語呂合わせでメッセージを伝えた。「0」は「お」、「10」は「テン」から取って「て」、「6」は形が似ているから「る」だ。
筆者が初めてポケベルを持ったのは、カタカナが入力ができるようになってからだ。入力は50音表に準じていて、例えば、「ア」は1行目の1列目にあるので「11」、「イ」は「12」。「カ」は2行目の1列目なので「21」だ。
当時は家の電話や公衆電話から、夢中でベルを打っていた。最初は「あかさたな」と指を折りながら、どの数字を押せばどの文字を入力できるか数えていたが、毎日打っているうちに覚えてしまい、高速で打てるようになった。
やりとりしていた相手は、同級生の友人たち。他愛のない内容だったと思う。「オハヨー」とか「ネムイ」とか。ただつながっていたい、つながりを確かめたいだけの、内容のない会話。
筆者が通っていた女子校には公衆電話が1台だけあって、休み時間にはテレホンカードを握りしめた女子高生の行列ができていた。筆者は並んだことがない。彼氏がいなかったからだ。並んでいた子たちは、別の学校に通う彼氏にベルを打っていた。
年末に家で紅白歌合戦を見ながら、家の電話を握りしめ、友達と感想を送り合っていた。「コバヤシサチコヤバイ」とか、「エンカナガイフロハイル」とか、たぶんそんな内容だ。深夜12時を回った瞬間に、「オメデトー」「コトシモヨロシク」と送り合った。
ベル打ちが得意だった
1度目の大学受験に失敗し、高校を卒業し、予備校に通った。98年2月、第一志望の大学の前期試験の合格発表に、ポケベルを持って出た。
自分は不合格だったが、予備校の同級生の受験番号があることを確認した。大学の公衆電話から、「オメデトウ」と打った。あとで聞いたらそのメッセージは、彼が合格発表を見る前に届いたという。「教えてくれてありがとう」と言ってくれたけど、本当は自分で合格を確かめたかったかったかもしれない。悪いことをしたなと思う。
大学には後期試験で受かった。大学時代、携帯電話と携帯メールが普及した。携帯からの文字入力は、ポケベル同様、「11」で「あ」、「12」で「い」が入力できる「ベル打ち」(2タッチ入力)と、「1」を1回押すと「あ」、2回押すと「い」を入力できる方式から選べた。筆者はベル打ちが圧倒的に早かった。画面やテンキーを見ずにメールできるのが自慢だった。
03年、新卒で入社した際、筆者がベル打ちでメールを打つ様子を先輩記者が記事にしてくれている。「PCのキーボードより軽快で途切れのないこの音の正体は、なんとケータイメールのタイピング音。いつ変換しているのか分からないほど速いタイピングにも驚かされたが、その速度でメールを打ちながら、左手では机の上を片付けるという離れ業には、たまたま来社していたライターも驚きを隠せなかったようだ」。
来年、ポケベルがなくなる。ポケベルを打つために使っていた公衆電話やテレホンカードも激減したし、固定電話を持たない人も増えた。テンキーの付いた“ガラケー”も減った。母校の合格発表はオンラインで見られるようになった。
自分が使っていたものが過去の遺物になり、やがて、なくなっていく。筆者は40歳になった。年を取ったなと思った。
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