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ランキングは必要か? コンテンツ配信の「反響」と「新しさ」(3/4 ページ)

» 2019年02月08日 14時30分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

配信で失われる「手応えの可視化」にどう対処するのか

 とはいうものの、Netflixも視聴量や人気の度合いを一切発表しないわけではない。「たくさんの人が見ている」ということは、映像作品をマーケティングしていく上で、きわめて大きな効果を持っているからだ。

 このことは、サービスの利用者が増え、新作が増えるほどに重要になってくる。ヒットしつつある作品をプロモーションするには、「これはこんなにたくさんの人が見ています、評価しています」という情報を示すことが効果的だからだ。

 またランキングや視聴量といった情報は、コンテンツの制作者にとっても大きな意味を持っている。

 ここでいう「意味」とは収入だけの話ではない。むしろ「やりがい」「手応え」といった部分に関わる問題である。

 2018年中に、筆者は複数のアニメ関係者から次のような話を聞いた。

 「配信優先、もしくは配信オリジナルの作品では、アニメを制作することになった段階で、ビジネスとしての収益が概ね計算できる形になる。企画が通って制作が始まった段階で、ある意味『元がとれている』ことになる。これはビジネスとしては誠に結構なこと。しかし、Netflixなども、視聴者数や視聴者の属性を教えてはくれない。制作して配信が始まったあと、誰がどのくらい見てくれているのか、手応えがない」

 テレビアニメには「今期の覇権」みたいな言葉がある。視聴者が多く、人気が高かった作品を指す言葉だ。中身より序列を楽しんでいるようなところがあり、正直、筆者はあまり好きな言葉ではない。だが、「覇権」みたいな言葉があるくらい、コンテンツの人気には明確に「勝ち負け」がある。売り上げなど金銭的な面でも報われなくてはならないが、作っている人の側から見れば、「ファンに支持された」「面白いと思ってもらえた」という手応え自体も報酬でもあるのだ。

 同様のことはドラマなどでも起きている。昨年アメリカでは、「賞レースで賞をとるのがネット配信ばかり」であることを批判する声も聞かれた。確かに良い作品だが、テレビほど視聴が容易なわけでなく、「受賞作について視聴者がよく知らないことが増えてた」と言われたのである。

 Netflixがヒット作について一部数字を出すようになったのは、プロモーションの問題に加え、作り手のモチベーション対策、という面もあったようだ。

 配信になると数が可視化しづらくなり、それが「反響」を見えづらくする、ということは、配信全体が抱える大きな問題だ。別にNetflixに限った話ではない。本来、配信だと数字は確実にカウントできるのだが、それをそのまま公表することは、プラットフォーマーにとっては「カードをオモテにして戦う」ようなところがあって、ビジネス上の優位を手放すことにもつながるからだ。

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