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“数字に弱いニッポン”、統計不正で露わに 「データの歪み」なぜ放置? 国会議員×元日銀マンが斬るこれからのAIの話をしよう(データ編)(3/4 ページ)

» 2019年03月13日 07時00分 公開
[松本健太郎ITmedia]

鈴木 たとえ統計の精度が上がる「良い介入」だとしても、それはやってはいけないんです。良い介入をするタイミングを政治で操作してしまうと、選挙時などで為政者にとって良い影響が出ますよね。

初鹿 統計データは同じ手法でやっていればこそ、連続性が担保できます。特に賃金なんて伸び率を重視するので、多少の誤差があっても傾向は見えてくるでしょう。良い介入だろうが悪い介入だろうが、介入することでその連続性が途切れてしまう。一方で過去の手法を延々と引き継いでいると、今度は時代と合わなくなってしまう。本来なら、慎重に慎重を重ねた議論が必要なんです。

―― 18年8月には韓国の統計庁の長官が更迭され、19年2月にはインドの統計機関トップが辞任しました。インドの件については、政府が雇用統計発表を遅らせていることに抗議し、辞任したという報道もあります。政治と統計について考えるとき、例えば政府が自分たちに都合の良い数字を求めるようなことはあってはならないと思います。

初鹿 それは極めてまずいことです。政策決定側の希望するような数字が作られることは絶対にあってはならない。繰り返しになりますが、自分たちの主観に寄り添った数字を求めてしまったら、それは目先の判断を誤ります。

鈴木 おっしゃる通りです。統計の原理原則として、非政治性・中立性は絶対に守らなければいけません。ここが崩れると、全ての意思決定にゆがみが生じます。

 最近、エコノミストの間で話題になっているのが総務省統計局による「家計調査」です。18年1月に「自由業を含む、勤労者でも無職でもない世帯」が下がり始めて、「勤労者世帯」が上がり始めています。無職世帯の緩やかな増加も18年以降は止まっていますね。勤労者世帯はエンゲル係数が低く出ますから、恐らくあえて勤労者世帯を多くしたんでしょう。

 支出のバラつきが多い勤労世帯を多く取ることは精度改善につながるので、まさにこれは「良い介入」です。ただ、これをもって支出が増えたから景気が回復したかといえば、それは違います。

統計不正 総務省統計局による「家計調査」の「家計調査・二人以上世帯の世帯主属性の構成比」について(筆者作成)

―― 「なぜ18年に勤労者世帯が大きく増加しているのか」「エンゲル係数が上昇した事実を隠すためなのでは」など、データの不自然さを指摘する声はありますね。

初鹿 こういうことをしてしまうと、以前との比較ができなくなってしまいます。この時点からの傾向なら分かりますが、18年以前と比べて良くなっているというロジックを使うのは間違っています。

鈴木 みんな統計のヘッダだけ気にし過ぎていて、データの中身を見ないし、もはや見れなくなっているんです。統計には癖やバイアスがあります。そのことを作る側も読む側も無視して表面上のデータだけで物事を判断していたら大問題です。

―― 「統計や業務データが十分に活用されず、往々にしてエピソード・ベースでの政策立案が行われている」との指摘を受けて、政府や自治体は「EBPM」(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案)に取り組んできました。17年から始まった「統計改革推進会議」でも、「最終とりまとめ」の出だしにEBPM推進体制を紹介しています。ですが、このような状況でEBPMは定着するのでしょうか?

初鹿 去年の厚労省による「裁量労働制データ偽装」(※1)でも似たような問題が起きていますからね。データで示しますと言ったら、その内容がもうめちゃくちゃだった。データを自分たちに都合が良いように作って、それを証拠に政策を作れば良いんだという発想になっていないかという疑念があり、非常に心配しています。

※1:裁量労働制の労働者が一般の労働者より残業時間が少ないという厚労省のデータが、実は不自然に操作したものであることが明らかになった

鈴木 現状のデータがボロボロだと、エビデンスとは言えません。データだったら何でも良いという話ではありませんから。「Garbage In Garbage Out」(無意味なデータ入力による、無意味な結果出力)なんですよ。

現場では何が起こっているのか?

―― 厚労省に限らず、いろいろな問題が明るみに出ています。総務省の「小売物価統計」で、地方の統計調査員が過去の価格をそのまま報告する不正を行っていたり、厚労省の「賃金構造基本統計」で、本来訪問調査すべきところを無断で郵送調査に切り替えていたり。国土交通省の「建設工事統計」では、17年度の「施工高」について、実際より高い数値を公表し、1.6兆円もの下方修正をしました。一体、現場では何が起きているのでしょうか。

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