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インタビュー
» 2019年03月26日 18時07分 公開

体当たりッ!スマート家電事始め:世界を視野に入れたIoTネットワーク「Sigfox」とは? (1/2)

さまざまなLPWA技術が登場する中、他にはない特長を持つ技術も登場している。「Sigfox」は国際ローミングサービスの実現を容易にするという。あのルイ・ヴィトンが旅行用スーツケースに装着するデバイストラッカーに採用した。

[山本敦,ITmedia]

 低速ながら長距離伝送ができ、デバイスの消費電力を低く抑えられるLPWA(Low Power Wide Area)は、様々なモノがインターネットにつながるIoT(モノのインターネット)時代の無線通信ネットワークとして注目されている。LPWAには様々な通信規格が存在するが、今回はいくつかの特長を持つ「Sigfox」(シグフォックス)を深掘りしてみたい。日本で唯一の「Sigfoxオペレーター」である京セラコミュニケーションシステム(以下:KCCS)を訪ね、同社LPWAソリューション事業部の宮下純一氏に詳細を聞いた。

京セラコミュニケーションシステム、LPWAソリューション事業部 LPWAソリューション課 副責任者の宮下純一氏にSigfoxの詳細を聞いた

 近年、無線通信ネットワークといえば、主に大容量のデータを高速に伝送できる4G LTEなどの携帯電話ネットワークやWi-Fiの進化が注目を集めてきた。しかし今後は、あらゆるデバイスがネットワークにつながる「Massive IoT」の時代がやってくる。個々のデータ量は小さくても非常に多くの端末が存在する“モノのインターネット”。無線インフラも、これまでとは違う尺度で語られることになる。

 例えば高齢者や児童の見守りを目的としたロケーショントラッキングや、水道の遠隔自動検針、ビニールハウス環境管理ソリューションなどのために開発されたIoTデバイスであれば、内蔵するセンサーで小容量のデータを1時間に1度、または1日に1度といった頻度でクラウドに送信できる通信機能があれば十分だ。転送速度よりむしろ、低消費電力で長期間に渡って安定した通信が行えること、そして通信エリアの広さが重視される。

 このような機器に最適なLPWAの技術開発が進んでいる。代表的なものにはスマートフォンなどと同じ方式のLTE-MやNB-IoT、および無線局免許を必要としないLoRa(ローラ)、そしてSigfoxなどだ。

 Sigfoxが一度の通信で送信できるデータ容量は最大12バイトまで。通信速度は上り100bps、下りは600bps。1日の通信回数の上限が決まっていて、上りが140回、下りは4回まで。上りの通信はIoTデバイスがセンサーで取得したデータをクラウドに送信する際などに使われるが、下り方向はデバイスの設定変更など限られた用途を想定しているためだ。

 日本国内の場合、Sigfoxは920MHz帯の無線通信用帯域を利用する。帯域幅は100Hz。低消費電力も大きな特長で、デバイスの仕様にもよるが、一般的な乾電池で数年間は駆動できる。

1社が単独でグローバル展開する意義

 Sigfoxは、フランス南部の都市、トゥルーズの近郊に拠点を構えるグローバル通信事業者であるSigfox S.A.が技術を開発し、ネットワークを運営する通信技術。複数の企業が規格の普及拡大に参加するLoRaに対して、Sigfoxは1社が単独で1つの技術を展開している点が特長といえる。

 Sigfoxは世界60カ国(19年2月現在)に広がるネットワークを展開しており、各国に1つの事業者だけがSigfoxオペレーターとして専属契約を結ぶ。冒頭で触れたように、日本ではKCCSが唯一のSigfoxオペレーターであり、パートナー企業への回線提供と技術協力を行なっている。またSigfoxに対応するデバイスやアプリケーションの開発、サービスなどを手掛けるパートナー企業は423社(19年2月現在)。宮下氏によると「海外のSigfoxに対応するデバイスとサービスを日本に紹介して、エコシステムの拡大に尽力することもSigfoxオペレーターの重要な役割」という。

 実は、60カ国にネットワークを展開していてもSigfoxのクラウドサーバは全世界に1カ所だけ。すべての対応デバイスからの通信が集約されるシンプルな構成だ。「ワンストップの通信サービスが提供できることに加え、国際ローミングサービスの実現が容易になるメリットもある」と宮下氏は話している。

 Sigfoxのネットワークサービスを利用するための通信コストは、回線契約の数や通信回数によって変わるものの、1回線(=1デバイス)あたりで「年額100円から」。多数のIoTデバイスを運用することを前提に設定した料金だ。

Sigfoxのエリア化を手軽に実現できる小型ゲートウェイ「Sigfox Access Station Micro」も提供中

 Sigfoxネットワークの日本国内におけるエリア展開については、18年11月に全国の人口カバー率90%を突破。19年3月末には95%、夏までには97%の到達を目指す。日本でもSigfoxに対応するデバイスとサービスを利用できる環境が整い、KCCSの宮下氏は「2019年には国内外のSigfoxパートナーによるプロダクトが続々と商品化されて、利用環境が広がるだろう」と期待している。

 例えばSigfoxパートナーのネクストスケープは、スポーツ自転車向けの盗難防止サービスを実現するトラッキングデバイス「AlterLock」を商品化。サブスクリプション型の見守りサービスと一緒に提供している。

日本のベンチャー、ネクストスケープが商品化した自転車向けの盗難防止・抑止サービス「AlterLockサイクルガードサービス」

 AlterLockは、自転車にSigfoxの通信モジュールとGPS内蔵のデバイスを取り付けておくと、自転車の異常を検知してアラーム音を鳴らす。万が一、盗難に遭った場合もスマホアプリを使って自転車の現在位置を追跡できる。バッテリー消費が抑えられ、遠距離通信にも対応するSigfoxの特徴を生かしたデバイスだ。

登録した自転車のロケーションがアプリの地図上で分かる

 バリューケアからは高齢者の自律的な生活をサポートする見守り用のIoTデバイスが商品化されている。手のひらサイズのデバイスにはボタンと加速度センサーが内蔵されている。離れて暮らす高齢の家族に手渡して、定期的にボタンを押してもらいコミュニケーションを図ったり、デバイスを冷蔵庫のドアに貼り、ドアの開閉のタイミングで通知を飛ばす機能が利用できる。

押しボタンと振動センサーを搭載したバリューケアの見守りデバイス

 ほかにも離島や山間部など遠隔地に設置した水道メーターの検針や、各家庭の灯油タンク内の残量を可視化して灯油の配達業務を効率化するセンシングデバイスとサービスなどが次々に誕生しているという。ネスレ日本とKCCSモバイルエンジニアリングがオフィス向けのサービスとして共同開発した、キットカットの自動発注システム「キットカット たのめるくん」もSigfoxを活用したビジネスの事例だ。

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