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弁護士が解説 “平成30年改正著作権法”がビジネスに与える「衝撃」「STORIA法律事務所」ブログ(4/5 ページ)

» 2019年04月04日 07時00分 公開
[柿沼太一ITmedia]

収集できる情報の種類

 先ほど例としてあげた「書籍検索サービス」「テレビ番組検索サービス」「街中風景検索サービス」「映画検索サービス」「曲名検索サービス」「評判情報分析サービス」「論文剽窃検出サービス」は、いずれも「インターネット上の情報(送信可能化された情報)」に加えて「現実世界の情報」も対象にするサービスです。

 新著作権法47条の5により、これら「現実世界の情報」(公表された著作物に限ります)を収集することが適法であることが明確化されました(なお、後述の「軽微利用」を伴わなければ、改正著作権法施行前でも、著作権法第47条の7(情報解析)等の規定を用いてこれらのサービスを提供することは一部可能だったと思われます。)。

提供される結果の内容:軽微利用

 先ほど述べたように著作権法改正前の段階で、元著作物の利用方法として明文上認められていたのは「Web検索サービスにおける対象サイトのスニペット・サムネイルの提供」だけでしたが、今般の改正により「軽微利用」に該当すれば元著作物の利用が認められることになりました。

 軽微利用とは、条文上は「当該公衆提供提示著作物のうちその利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なもの」とされています。

 問題は、具体的にどこまでが「軽微利用」として認められるかという点なのですが、Google Booksでは、「ユーザーに対して表示される検索結果に表示されるのは通常1ページの8分の1であり、書籍全体のうち10%の領域はあらかじめ表示対象から除外されている。また、辞書、レシピ、俳句のような短文詩は表示対象から除外される」(文化審議会著作権分科会報告書(平成29年4月)49頁)ということですので、「軽微利用」該当性の参考になるかもしれません。

 また、立法過程の資料には「軽微利用」について以下のように記載されています。基本的には「軽微利用か否か」は外形的に判断し、利用目的や著作権者の不利益の程度は、ただし書きで評価するということとなのだと思います。

著作権法の一部を改正する法律(平成30年改正)について(解説)・32頁】

公衆提供提示著作物のうちその利用に供される部分の占める割合」は、例えば楽曲であれば全体の演奏時間のうち何パーセントに当たる時間が利用されているか、「その利用に供される部分の量」は、例えば小説であればどの程度の文字数が利用されているか、「その利用に供される際の表示の精度」は、例えば写真の画像データであればどの程度の画素数で利用されているか、「その他の要素」としては、例えば紙媒体での「表示の大きさ」などが想定され、写真の紙面への掲載であれば何平方センチの大きさで利用されているか、といったことがそれぞれ意味されるものと考えられる。なお、「軽微」に該当するか否かの判断にあたって、例えば利用目的に公共性があるかといった点は考慮されない。

文化審議会著作権分科会報告書(平成29年4月)・49頁】

例えば、辞書・辞典の各項目や俳句等の言語の著作物の全部表示、写真・絵画の精細な画像の表示、言語の著作物や音楽・映像の、短い一部分を超える表示等が行われるような場合、「軽微」な範囲を超えるものと評価される場合もあるものと考えられ、そのような場合は権利制限の対象とならないような制度設計とする必要がある。

 ちなみに、この報告書の49頁の脚注には「具体的には、購入者以外には部分的・軽微なものを含めその中身を一切見せないことによって購入意欲をかき立て、収益の最大化を図るという戦略の下で販売されているアイドルの写真集等について検討を行った」という非常に興味深い記述があるのですが、議事録には、どのアイドルの写真集について、具体的にどのような検討を行ったかが一切記載されていないようで、非常に残念です。断固抗議したいと思います。

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