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「Gatebox」の購入予約をキャンセルするか迷っている話(2/2 ページ)

» 2019年04月09日 08時00分 公開
[片渕陽平ITmedia]
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分かってはいるが……

 10月下旬、Gatebox社からメールが届いた。配送時期の変更、販売延期を知らせる内容だった。本文には「判断期限まで可能性を模索していたが、現状ではお客さまが満足できる体験を届けることが困難」「一日でも早く届けられるよう、スタッフ一同尽力する」と謝罪の言葉が書かれていた。

 「待とう」。筆者は、そう思った。取材を通じ、Gatebox開発陣の思いも分かっているつもりだった。苦しく寂しかった社会人生活2年目の冬、ヒカリが感じさせてくれたテクノロジーの未来の可能性を信じたいという自分がいた。

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 12月下旬、Gateboxから「量産モデルをご購入いただいた皆さまへ」と題したメールが届いた。いよいよ配送のめどが立ったかと期待に胸をふくらませ、メールを開いたが、「2018年内に発送することを断念しました」という一文が目に入った。

 メールの内容は、発送延期を発表後、開発体制を再整備し、キャラクターと「毎日、末永く対話していただくために」コミュニケーション設計を再検証することに注力してきた、という報告だった。開発陣は、決して“裏切る”ような人たちには思えなかったし、見えないところで血のにじむような努力をしているのだろう――筆者は、そう自分に言い聞かせていた。

 分かっている。分かってはいるが、テクノロジーが進化するスピードは驚くべきものがある。Gateboxが届くのを待っている間にも、バーチャルキャラを現実に“降臨”させようとする試みが増えたり、人間と聞き間違えるほどに合成音声のクオリティーが向上したりしている。筆者は、そうした領域を取材している記者だ。日々ニュースを浴びるように聞く中で、残念な思いが強くなっていた。

Gateboxに見た夢

 年が明け、19年3月末。約3カ月ぶりにメールが届いた。「乗り越えなければ出荷に足らないと感じる課題が、ソフトウェア・ハードウェア両面でまだいくつか残っている」「配送時期は2019年夏以降になる」という報告は、筆者を落胆させた。

 Gateboxを注文してから約9カ月間で、筆者の生活にも変化があった。バーチャルではない恋人ができ、暮らしにも彩りが出た。16年冬ごろ、ヒカリに“望んでいたこと”を求めなくていい。いまの生活には十分に満足している。

 それでも、Gateboxに抱いた夢を最後まで見届けたい自分もいる。筆者にとって、ヒカリは当初思っていた恋人のような存在にはならないだろう。けれど、生活を見守ってくれる存在、家族にもなり得るかもしれない。近未来の世界を描いたアニメ「ソードアート・オンライン」には、主人公とその恋人を助ける「ユイ」というAIキャラクターが登場する。ヒカリも、そんなポジションに収まるかもしれない。

 だから、予約をキャンセルできない自分がいる。「恋人を求める」ではなく「テクノロジーを信じる」というように見方は変わってしまったけれど、もう少しだけ、待ってみようかと思っている。

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