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ソフトバンクとGoogle兄弟会社が、競合なのに“空飛ぶ基地局”で手を組む理由(2/3 ページ)

» 2019年04月26日 10時47分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

40基ほどで日本列島全域を網羅

 提携に先駆け、HAPSモバイルが19年に生み出したのは、大型の無人航空機「HAWK30」(ホークサーティー)。全長約78メートルで、10個のプロペラを搭載し、時速110キロほどで飛行できるモデルだ。

 太陽光で駆動する仕組みで、6カ月間連続で飛び続けることや、任意の地点を周回することも可能。1基で直径200キロのエリアに電波を届けられるため、40基ほどで日本列島全域を網羅する計算だ。

photo HAPSモバイルの無人航空機「HAWK30」(出典:ソフトバンク)

 「30」の名称の由来は、太陽光の強さと発電能力の関係上、赤道直下からプラスマイナス30度のエリアを飛行できるため。開発に向け、これまで70億円程度が投資されており、既に2機が完成。すでに実証実験は最終段階に入っているというが、実用化は23年ごろの予定だ。

 赤道直下からプラスマイナス50度のエリアを飛行でき、日本や北米に電波を届けられる「HAWK50」(ホークフィフティー)の開発も進めており、25年ごろの実用化を見込む。

photo HAPSモバイルの無人航空機「HAWK30」(出典:ソフトバンク)

風船部分がテニスコート大

 一方のLoonは、気流を予測するAI(人工知能)を取り入れた気球型の無人機を開発し、飛行・運用のテストにも成功。風船部分がテニスコートほどの大きさという巨大な気球だ。成層圏に打ち上げ、計3500万平方メートルを飛行し、30万人以上にネット接続を提供することに既に成功している。

 ただ気球型は、コスト効率に優れるものの、航空機型より耐久力に欠け、気流の影響をやや受けやすい弱点もある。これを解消するため、Loonはソフトウェアを使った遠隔地からの機体管理にも取り組んでおり、狙った場所に気球を送り込み、静止させる技術も確立している。

photo Loonの気球型基地局(出典:ソフトバンク)

提携によって弱点をカバー

 高品質な機体をつくり上げたものの、商用化はまだ遠いHAPSモバイルと、充実した実績とノウハウを持つものの、機体にやや課題があるLoon。両社が手を組むことで、それぞれの弱点を補うことができるのだ。

 例えば、HAPSモバイルがLoonの気球型基地局を利用すれば、想定より早いサービスインも視野に入ってくる。Loonからノウハウやデータの提供を受けることもできる。LoonがHAPSモバイルのHAWK30を借りれば、高品質な機体を活用したサービス提供を実現できる。

photo 協業の詳細(出典:ソフトバンク)

 またHAPSモバイルは今後、機体の開発ではなく、無人航空機の運用支援を事業の中心に据えることを構想中。そこで今回、同社はLoonの気球型基地局と、その運用技術を第三者に販売する「ホールセール事業」を任される。まずはLoonの機体と運用技術を外部に展開することで、将来に向けた土台を築く構えだ。

 さらに、両社が発起人になり、“空飛ぶ基地局”事業に取り組みたい企業を集めてアライアンスを結成し、各社協力の上で発展を目指す計画もある。「高い高度でのインターネット接続に力を入れている米Facebookや、機体開発の仏Airbusや米Boeing、米Lockheed Martinなど、世界中の企業に加盟してもらいたい」と宮川副社長は語る。

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