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ソフトバンクとGoogle兄弟会社が、競合なのに“空飛ぶ基地局”で手を組む理由(1/3 ページ)

» 2019年04月26日 10時47分 公開
[濱口翔太郎ITmedia]

 「まだ人類のうち37億人はインターネットに接続できていない。生まれる環境が違っても平等な世界を作り、インターネットを世界中に届けたい」――。ソフトバンクの宮川潤一副社長(最高技術責任者)は、4月25日に開いた会見でこう語った。

 ソフトバンクは同日、米Googleの兄弟会社と協業し、通信基地局の役割を果たす無人航空機を成層圏(上空10〜50キロ)に打ち上げる事業を始めると発表した。従来の基地局ではカバーできなかったエリアに通信環境を構築する他、災害で地上の基地局が破損した地域にも安定した通信を提供していくという。

photo ソフトバンク子会社が開発した“空飛ぶ基地局”(出典:ソフトバンク)

 成層圏に着目した理由は、比較的気流が安定しており、無人航空機の安定稼働が可能なため。そこから電波を発射し、周波数が2GHz帯、通信速度が780Mbps程度の通信を提供する。地上の基地局が供給する電波と同様、ユーザーはスマートフォンやタブレットと直接接続し、Webサイトを見たり、SNSを利用したり、動画を視聴したりといった用途が可能だ。

世界中の情報格差をなくす

 宮川副社長によると、この事業の目的の1つは、通信ネットワークが整っていない発展途上国の支援だ。無人航空機をアフリカや南米、東南アジアなどの上空に飛ばし、電波を広く供給することで、誰でもネットを利用できる環境を整備。情報収集や教育でのネット利用を容易にし、世界中の情報格差の解消を図っていく。

 電波の人口カバー率が極めて高い先進国(日本は約99%)でも、海上や山岳部など、人が立ち入らないエリアに通信網を構築する予定。漁業、農業、林業などの従事者が作業中にネットを利用できるようにし、一次産業を支援する。上空の通信環境を強化し、ドローンを使った輸送の精度を高めることも視野に入れている。

 成功すれば世界のあらゆる場所でネットが利用可能になり、エリアごとの知識や教育水準の差も小さくなる――という夢のようなビジネスだが、両社はどのような形で協業していくのか。

業界の発展に向け、競合同士がタッグ

 今回の協業では、ソフトバンク子会社のHAPSモバイルと、Alphabet(Google親会社)傘下のLoonが戦略提携を締結。HAPSモバイルは2017年に、ソフトバンクと無人航空機開発のAeroVironmentの合弁会社として誕生した。Loonは18年に、Alphabetの研究部門「X」から独立した企業だ。

photo Loonのアラスタ・ウェストガースCEO(=左)、ソフトバンクの宮川潤一副社長(=右)

 提携に伴い、HAPSモバイルはLoonに1億2500万ドル(約140億円)を出資。Loonも、HAPSモバイルに同額を出資できる権利を得た。資金面だけでなく、両社は機体の相互利用や、機体に装備する通信機器の共同開発、両社が持つゲートウェイ(異なるネットワーク同士を接続する通信機器)の統合など、多様な面で協力していく。

 ただ本来、両社は個別にオリジナルの機体を開発し、各自の方針で実用化を目指していた競合同士。今回は「無人航空機から電波を飛ばす」という、まだ未確立のビジネスジャンルを発展させるため、両社のノウハウなどを生かし合うために提携を決めたという。

 ソフトバンクの宮川副社長は「『なぜ競合同士が手を組むのか』と疑問を持つかもしれないが、われわれは『成層圏利用』という同じ山を登る者同士。この取り組みを、より早く世界中に広めるための決断だ」と語る。

 Loonのアラスタ・ウェストガースCEO(最高経営責任者)も、「機体同士の接続性を高めるなど、協力体制を築くことで、これまでは無理だと思っていたことを実現できる」と話す。

 では、両社が相互に提供する“空飛ぶ基地局”は、それぞれどのようなものか。

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