この問題のすべてを俯瞰することは、正直筆者の手にも余る。
だが、今回のアメリカの方針がいかにも乱暴であり、多くの国に影響を与えるものである、ということは断言できる。
例えば、Huaweiは日本から、2018年度だけで6800億円分の資材を買っている、とされている。おそらくアメリカからはそれ以上のものを買っているだろう。
Googleの絡むサービスもHuaweiには提供できなくなっているし、表だったコメントは出ていないものの、マイクロソフトのWindowsや、Intel、AMDなどのCPUも出荷できなくなっているはずだ。Armも、SoCを設計するためのARMコアアーキテクチャについて、今後のバージョンのライセンス提供や技術サポートが停止されているという。
これらのことから、Huawei問題によって、多くの企業が業績面で影響を受けることは避けられない。半導体だけでなく、各種フィルムや素材など、スマートフォンだけを見ても、必要な資材・先端技術は多岐にわたる。国際的なサプライチェーンへの影響は玉突き式に現れるだろう。どのような変化が起きるかは、現状読み切れない。
こうしたことを、アメリカ政府は完全に読み切っていたのだろうか? 「影響は大きいが、その分交渉の効果も高い」と考えているのかもしれない。
筆者が懸念するのは、こうしたことによって、「欧米・日本などの市場」と「中国を軸とした市場」の2つに世界が割れてしまうことだ。
過去30年のインターネットの進化は、技術や特許をお互いにシェアし、高速に進化サイクルを回すことで進んできた。功罪はあるが、雇用コストや税的な優遇、市場性などを最適に組み合わせ、どんどん変化しつつ「全体では先に進む」ことによって成り立っていた。国には国境があっても企業がそれを飛び越え、別の論理で世界を広げていった。
だが、この10年、中国の動きも含め、インターネットを国が分断する動きが進んでいる。今回の「Huawei問題」はそれがもっとも先鋭的に現れたものだ。
技術のシェアが進まなくなれば、分断された市場に合わせ、別々の技術が広がることになる。ベースになるのはオープンソース由来の技術だろうが、その上に、「国と市場で分断されたサービス」が横たわり、実質的に、市場によって異なる世界が生まれる。
本当にそれでいいのだろうか?
完全な分断には数年以上の時間が必要だろう。もしかしたら、中国は国としてそういう施策を選ぶかもしれない。
だが、テクノロジーを愛するもののひとりとして、そういう分断が進むことを悲しく思う。すばらしいサービスも、すばらしいガジェットも、そしてすばらしいコンテンツも、世界中の人が同じように楽しめる世界であるべきだ。「楽観的だ」「甘い」と思う人もいるだろう。だが、ここでは理想主義者でいたい、と思っている。
今回の問題が、いい形で早期にすることを願っている。「あの時のあの事件が、世界の分断の始まりだった」と振り返るのは、あまりに寂しい。
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