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「Huawei問題」の本質は何か(2/3 ページ)

» 2019年05月31日 07時00分 公開
[西田宗千佳ITmedia]

証拠はどこに? 懸念はあっても払拭できない「疑念」

 とはいえ、実のところ、表に見える形でこれらの「懸念」に対する証拠があるか、というと、ない。ドイツやフランスは調査の結果「証拠はみつからなかった」としているし、筆者も、「明確な証拠がある」という話を聞いたことはない。

 それでも疑念は払拭できないのが、今回の話の面倒なところだ。

 通信機器に、我々の知らない「バックドア」が見つかった、という話はけっこうある。エドワード・スノーデンは、NSA(米国家安全保障局)がCiscoの輸出用製品にバックドアをしかけていた、とコメントしている。アメリカが中国企業に疑念を持つのは、自らも同じことをしているからではないか……という指摘は多い。

 そもそも、バックドアのようなものが見つかったからといって、それが「不作為なバグによる結果」なのか、「故意に作られたもの」なのか、それとも「存在を故意に見過ごして秘密にしていたもの」なのかを判別することはできない。

photo Huaweiの最高法務責任者は「米政府はセキュリティの脅威についてなんら証拠を提示していない」と主張

 携帯電話インフラへの導入した際、通信事業者側が知らないうちにデータを盗めるのだろうか? この疑念については、ソフトバンクの宮川潤一CTOが、以前にこう答えている。

 「4Gの基地局などの場合、(データを盗むのは)相当難しいだろう。少なくとも、自分は方法がわからないし、できないと思う。一方、5Gについては、その懸念もあり得る部分がある」

 要は、よりインターネット的なインフラになっているので、その中になにかを仕込まれることについては警戒が必要、ということかと思う。

 Huaweiは5Gに勝負をかけていた。規格化・技術開発双方に費用も人材も投下し、大きな地位を占めるに至った。結果的に、北欧勢とHuaweiが5Gインフラで大勢を占め、彼らの協力なしには5Gネットワークの構築は難しい状態にある。規格争いでも技術開発でも後塵を拝した日本はもちろん、5Gインフラよりもサービスレイヤーに力を入れていたアメリカもまた、5Gインフラ事業では「勝ち組」に入れていない。

 では、そこでどこと組むべきか? アメリカとしては、中国よりも信頼できる北欧勢を優先にしたい……と考えたわけだ。

「壁を作る」中国にカードを切るアメリカ

 アメリカと中国の関係は、年々悪化している。

 自国の言論統制のために「壁」を作り、海外の企業の進出に制限をかけ、自国内の人口を背景に「自国のためだけのインターネット」と「自国のためだけのネットサービス」を拡大する中国。その姿勢は、政治的にも経済的にも、アメリカの考えとバッティングする。

 Netflixのリード・ヘイスティングスCEOは、同社の中国進出について記者に問われ、こう返答している。

 「今後数年以内の進出はあり得ない。AppleもGoogleもAmazonも、中国でのサービスをなかば諦めている。よほど政治的な状況が変化しない限り、再考の余地はないだろう」

 190カ国以上に進出し、残る空白は中国といくつかの紛争当事国だけ、という状態になったNetflixにとっても、中国は「進出がかなわない、別の論理で動く国」である。

 こうした状況、特に貿易戦争について有利に立つため、アメリカは中国に交渉を迫っている。Huawei問題は安全保障上の問題であると同時に、交渉のためのカードである。

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