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それは人類にとって脅威なのか 「強いAI」について考えるよくわかる人工知能の基礎知識(2/3 ページ)

» 2019年06月19日 09時40分 公開
[小林啓倫ITmedia]

現在あるのは「弱いAI」

 強いAI=汎用型AIと定義すると、現在実用化されているAIは全て弱いAIということになる。

 Googleが開発した囲碁ソフト「AlphaGo」は人間のトップ棋士に勝利したが、自動車を安全に運転することはできない。Googleは自動運転車を開発しているが、そこに搭載されたAIは金融取引における不正を暴くことはできない。そして不正な取引を検知するために開発されたAIは……というように、企業が手掛けるAIのほとんどは用途が限定されている。

 これまでの連載で解説してきたように、いまAIアプリケーションを実現する手段として主流になっている機械学習やディープラーニングは、大量のデータを機械に学習させる手法だ。

 そこでは人間が問題の枠組みとゴールを設定し、関係するデータと適切なアルゴリズムを用意する。機械はそれらを基に、特定のパターンを見つけ出していく。

 人間のように何をすべきか自ら考えて結論を出しているわけではない。したがってAIに新しいタスクを実行させるには、新しいデータとアルゴリズムを用意して、一から学習させる必要がある。ただし第4回で解説したように、ある目的のために開発したAIを、それに近い目的に流用する「転移学習」という手法も生まれている。

 だからといって、弱いAIに価値がないわけではない。AIはさまざまな頭脳ゲームで人間を上回る腕前を発揮するようになったし、自動運転は人間の乱暴なドライバーや飲酒運転者よりも安全に運転できる。金融犯罪を検知するプログラムは、人間よりも多くの取引を高精度で監視可能だ。用途は限定されるが、弱いAIも優れた価値を生み出すのだ。

強いAIは必要か

 弱いAIで十分ならば、私たちは強いAIの実現を目指す必要があるのだろうか。

 この問いをめぐる議論では、しばしば「鳥と飛行機」の話が引き合いに出される。いま、あなたは機械で鳥を再現しようとしている。その目的が鳥という生き物の研究なら、その手段は適切ではないかもしれない。本物の鳥をそっくり再現できる「ロボット鳥」はいまだに開発されていないからだ。

 しかしその目的が「空を飛ぶ道具をつくること」であればどうだろう。空を飛ぶ道具なら、1852年にアンリ・ジファールが有人飛行船の飛行を成功させたし、1903年にはライト兄弟がライトフライヤー号による飛行を実現した。

 飛行機と飛行船は、いずれも鳥とは全く違う仕組みで飛行するが、「空を飛ぶ」という点では共通している。それどころか飛行機と飛行船は、鳥よりもずっと高く遠くまで飛ぶことができ、大量の人々や荷物を運べる。

 何が言いたいかというと、私たちがAIに何を求めるのかは目的次第だということだ。特定の仕事を、人間並みかそれを上回るパフォーマンスで機械に代行させたいのであれば、弱いAIで十分だろう。一方でジョン・サールが主張したように、人間の心そのものを作るようなAI開発だってあり得るかもしれない。

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