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それは人類にとって脅威なのか 「強いAI」について考えるよくわかる人工知能の基礎知識(3/3 ページ)

» 2019年06月19日 09時40分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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強いAIは実現されるのか

 では、そもそも強いAIは開発できるものなのか。可能だとするなら、私たちはいつそれを目にできるのか。

 この問いをめぐる、もはや古典的とも呼べる概念が「シンギュラリティ」(技術的特異点)だ。未来学者レイ・カーツワイルは、2005年に出版した著書「シンギュラリティは近い」で、2045年には人工知能は人間の脳を超える知性を持つと予想した。「ムーアの法則」に象徴されるような、デジタル技術の指数関数的な性能向上が後押しとなり、コンピュータの処理能力が飛躍的に向上するという。

 また彼は、2029年に人間1人当たりの脳の処理能力に匹敵するAIが実現されると予測する。これは汎用AIと言い換えてもいいだろう。しかし、いくらコンピュータの処理能力が向上しても、人間の頭脳と同じ働きをするAIが登場するかどうかは別問題だという批判もある。

 カーツワイルのシンギュラリティ理論は技術進化のトレンドに基づくマクロな予測だが、汎用AIを技術的に実現しようという取り組みは、実際にさまざまな団体や研究機関が進めている。こうした組織の研究者らは、それぞれ独自の理論に基づいて汎用AIの模索を続けている最中であり、いつどのような形で実現されるかについても、大きく意見が分かれる。

 例えば昨年、未来学者のマーティン・フォードが、著名なAI研究23人に対するインタビューをまとめた著書「Architects of Intelligence」を出版した。

 それによると、ロボット研究者として有名なロドニー・ブルックスは「2200年までに、汎用AIが50%の確率で実現される」と回答したそうだ。レイ・カーツワイルがシンギュラリティの到達時期として挙げた「2029年」とは大きな隔たりがある。他の研究者の予想もばらばらで、「何年までに汎用AIが50%の確率で実現されると思うか」という問いに対する回答の平均値は「2099年」だったという。

 いまのところ、AIのビジネス活用を考える場合は弱いAIに焦点を当てればいいだろう。とはいえ、このような「超人工知能」(最近ではASI:Artificial Superintelligence、『人工超知能』とも呼ばれる)がいつか生まれる前提に立つと、私たちはそれにどう備えるべきなのだろうか。あるいは、特定の領域で人間を上回るパフォーマンスを発揮する弱いAIをどう制御すべきか。この問いをめぐる議論については、次回整理してみたい。

著者プロフィール:小林啓倫(こばやし あきひと)

経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)など多数。


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