最近はインターネット、あるいは「Web 2.0」黎明期の話をすると「インターネット老人会」などと揶揄されてしまうのですが、少し古い話をしましょう。
いまや大勢のユーザーを抱え、極めて個人的なつぶやきから社会的に重要なニュースまで、幅広く伝えるWebメディアとして成長したTwitter。しかしそのサービスが開始されたのは2006年であり、まだ10年ちょっとの歴史しかありません。私がアカウント(@akihito)を登録したのは2007年7月で、当時はもっと知名度が低く、牧歌的な雰囲気でした。
そのころユーザー数の公開は行われていなかったのですが、参照できる情報を少しだけリンクしておくと、かつて日本国内で最強のSNSだったmixiがユーザー数1500万人を突破したのが2008年のこと。一方のTwitterはというと、2010年に行われたカンファレンスにおいて、「日本でのユニークユーザー数は300万人以上」との発言があったと報じられています。mixiの方がずっと強力な存在だったわけです。
とはいえこの2010年前後は、Twitterの知名度とユーザー数が急速に上昇していた時期で、ビジネス利用への関心も高まりつつありました。余談ですが、私も2009年に、『「ツイッター」でビジネスが変わる!』という翻訳書に訳者として参加しています。この本はツイッターのビジネス利用を論じた本の中で、最も早い時期に出版されたものの一冊でした。
そして人々が集まってきたのを目にして、マスメディア各社がTwitterに公式アカウントを開設し始めます。朝日新聞が2009年5月に、毎日新聞が2009年6月に、読売新聞が2010年1月に、そして日本経済新聞が2010年7月に、それぞれアカウントを開設しています。テレビ局各社の公式アカウントが登場しているのもこの頃です。こうして「人々が注目している場所でニュースを提供する」という対応が進んだことで、10年後、Twitterを通じてニュースを知るというのは至極当然のこととなりました。
これと同じ状況が、FacebookやYouTube、そしてLINEなどにおいても繰り返されるわけですが、少し意外なプラットフォームでも、ニュース系のアカウントが開設されるケースが出てきています。それがこの連載の第2回でも触れたTikTokです。
あらためてTikTokついて簡単に解説しておくと、これは中国のメディア企業ByteDanceが提供するサービスで、「ショートビデオアプリ」や「ショート音楽動画共有アプリ」などと呼ばれるカテゴリーに属するものです。要は動画共有サービスなのですが、ユーザーは単に動画を撮影するのではなく、音楽をつけたり特殊な加工をしたり、あるいはさまざまな「お題」に応える動画をシェアしたりして楽しむことができます。日本でも人気が急速に拡大しており、惜しくも大賞受賞は逃しましたが、2018年のユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされています。
TikTokといえば、こうした「音楽とダンス、可愛らしいエフェクト」が頭に浮かぶでしょう。なのでTikTokでニュースを配信、と聞くと意外な感じを受けるかもしれませんが、例えば米国の3大テレビネットワークの1社であるNBCは”Stay Tuned”という公式アカウントを登録して、次のようなニュースを投稿しています。
米カンザス州で発生した竜巻をバックに、いわゆる「ストームチェイサー」(竜巻などの破壊的な自然現象の追跡や撮影を行う人々)の男性が、パートナーである別の男性にプロポーズしたというニュースなのですが、映像の長さはたった15秒。画面を瞬時に切り替えたり、エフェクトや音楽を付けたりと、いかにもTikTok風の映像であり、内容もシリアスなニュースというわけではありません。それでも「何が起きたか、どのようなニュースバリューがあるか」は非常に分かりやすく、れっきとしたニュース配信として成立しています。投稿からおよそ1週間で、約9300件の「いいね」と、81件のコメントが寄せられています。
実はこのStay Tuned、メッセージアプリのSnapchat上で配信されるニュース番組としてNBCが立ち上げたもの。Snapchatも短い動画のやり取りが中核に置かれているソーシャルメディアですが、NBCはこの「短い動画」というフォーマットにうまく対応し、2017年7月に配信を開始すると、わずか5カ月間で登録者数400万人を獲得したと報じられています。一方で同じ報道機関であるCNNは、2017年12月に開始したSnapchat向け番組をその4カ月後に中止していて、単に「流行のプラットフォームに乗っかれば良い」というものではないことが分かります。
NBCはこの成功体験を基に、TikTokでも短い動画によるニュース配信に取り組んでいます。とはいえSnapchat版のStay Tunedはより「ニュース番組」風なつくりになっており、扱われるニュースも事件や事故、政治経済から娯楽系までさまざま。朝のニュースの「ヘッドラインニュース」、つまり主要なニュースを短くまとめて紹介するコーナーを見ているような感覚です。その点でTikTok版とは明らかに異なっており、NBCが単に「Snapchat版を移植するだけで良いだろう」と考えているのではないことが分かります。流行のプラットフォームに乗っかるだけでなく、その特性に合わせてコンテンツも調整する、というわけですね。
実際に、このStay Tunedを担当するエグゼクティブ・プロデューサー、アンジー・グランデに対するインタビューによると、1本の映像の制作に数時間をかけているそうです。また、Snapchat版では映像1本の長さが平均2分ほど(ただしこの中に複数のニュースが詰め込まれている)だったのものが、TikTokでは平均20秒とさらに圧縮されていて、「会話を促す」ようなコンテンツにすることが意識されているそうです。
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