論文では、「分岐現象」「断熱過程」「エルゴード過程」という3つの古典力学の物理現象でSBを説明している。「これらを組み合わせてアルゴリズムを考案したのではない。SBを説明する上で、これらが成り立つと仮定するとうまく説明できる」(同)
そもそもの研究対象である量子分岐マシンは、分岐現象と「量子断熱過程」という現象で原理を説明できるという。これを古典力学に変換したのがSB(の基である古典分岐マシン)で、分岐現象は古典力学にもある。そのため、SBの説明としてまず分岐現象は利用しているといえる。しかし、量子断熱過程の古典力学版である「断熱過程」は、実は証明が難しいという。
「定性的にはこれらで説明できるが、厳密な証明は難しい。量子力学では『量子断熱定理』という定理が一般に成り立つが、古典力学の断熱過程は特殊な条件下でしか証明できない」(後藤さん)
「さらに、古典力学の断熱過程が成り立つ上でエルゴード過程も必要になる。エルゴード過程のキーワードは『カオス』で、数学的な証明が非常に難しい」(同)
後藤さんは、「断熱過程は半球の器の中にビー玉を入れて、速く動かすとビー玉が飛び出すが、ゆっくり動かすと底に留まり続けるようなもの。エルゴード過程はゆがんだビリヤード台やゆがんだ円の中をボールが反射し続けると全ての場所を通るようなもの」と、それぞれの物理現象の身近な例を説明する。
断熱過程とエルゴード過程の証明は難しいことから、論文でも「今後の課題」としている。
後藤さんに質問しながら、記者が理解したシミュレーテッド分岐アルゴリズムのイメージはこうだ。断熱過程の図を見ながら読んでほしい。
(1)まず、2つの連続変数が初めはそれぞれ0の位置で安定している。これがパラメータの変化につれ、右上や左下に安定な場所が発生する(分岐現象)。
(2)パラメータの変化が「ゆっくり」であるために、変数は安定な底へ移動していく(断熱過程)。変化につれて他にも安定な場所ができるが、先に現れた安定点の方がエネルギーが低いため、変数は先に現れた安定点にとどまる。最終的に変数がとどまった座標が0より大きければ+1、小さければ−1と見なし、イジングモデルへ戻す。
(3)この説明では変数の初期値が0だったが、0でないところからでも変数は安定する場所を探す。これは変数が取りうる状態を満遍なく動き回り、エネルギーの低いところに確率的に長くとどまるから(エルゴード過程)。
(4)この図は2変数なので平面図に表されているが、3変数なら3次元の立方図、N変数ならN次元の図になる。あるいは、変数自体は全て1次元なので、N個の点が数直線上を行ったり来たりするという解釈でもいい。
こうした変数の挙動を表した数式が、シミュレーテッド分岐アルゴリズムということだ。
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