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AI時代のキャリア形成 仕事を奪われない人材になるには?よくわかる人工知能の基礎知識(2/4 ページ)

» 2019年08月07日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

AIと人間のタッグという可能性

 それでは時計の針をもう少し進めて、汎用型AI(強いAI)ではないが、優秀な特化型AI(弱いAI)がさまざまな業務で活用されるようになった未来を考えてみよう。

 この時期には一部の仕事がAIに任され始めるだろうが、完全に従業員がAIに置き換わる前に、人間とAIによる「協力期」が訪れると考えられる。

 この期間、人間とAIはそれぞれの得意領域を分担し、1つの役割(職業と言い換えられるかもしれない)を遂行するようになる。まるで人間とAIが合体して仕事をこなしているかのように見えるので、この状態をギリシャ神話に登場する半人半馬の種族「ケンタウロス」に例える専門家もいる。

 そんなケンタウロスの例を1つ挙げよう。名古屋市でタクシー関連サービスを展開している、つばめ自動車のAI活用の事例だ。

 2017年、つばめ自動車はNTTドコモと共同で、約150台の車両を使った「AIタクシー」の実証実験を行った。AIタクシーといっても自動運転車ではない。タクシーを運転するのはあくまで人間の運転手で、AIの需要予測を配車に役立てるのだ。

 NTTドコモがAIを開発しており、つばめ自動車がこれまで蓄積したタクシー運行データや、携帯電話の利用履歴に基づく人口の移動統計データ、気象データなどを活用し、現在から30分後の需要予測を行う。運転手にマップを通じて「お客さまを拾えそうなエリア」を教えてくるのである。

 運転手にとってタクシーの運転は、数あるタスクの一つでしかない。配車センターから指示を受けることも当然あるが、売上を増やすには「お客さまがいそうな場所」を考えるのが重要だ。こうした予測は運転手の経験や勘が基になるため、ベテランと新人運転手では売り上げに差が生じてしまう。

 この予測作業をAIに任せることで、AIとタッグを組んだ運転手の売り上げアップが見込めるというわけだ。紹介動画が公開されているので、具体的にどのような予測を行っているのか、興味のある方は確認してみてほしい。

 実際に、どれほどの効果が得られたのか。ITmediaの記事によれば、運転手1人1日当たりの平均で売上が1200円ほど増加したという。同様の実験を東京で行った東京無線タクシーの場合は、同じく平均で3115円のアップだったそうだ。

 ちなみに東京都心におけるタクシーの1日平均での売上は5万円弱らしいので、6%の売上増だ。東京無線タクシーのケースについては、新人に限ると10%程度の売上増が達成されたとの報道もあり、いずれにせよ十分な効果が出ているといえる。

 上の図で示したように、「協力期」にはこうしたケンタウロス、すなわちAIを活用する従業員(領域D)の数が増える。ただしそれはAIを活用しない従業員(領域A)の中から転換されるだけで、従業員全体の数は増減しない可能性が高い。

 実際にこの段階にある企業の多くが、既存の従業員数を減らさずにAI導入を進め、上記のAIタクシーのような売上アップや業務効率化、付加価値追求などをAIの効果として模索している。

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