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AI時代のキャリア形成 仕事を奪われない人材になるには?よくわかる人工知能の基礎知識(3/4 ページ)

» 2019年08月07日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

既存の職業と入れ替わるAI人材

 こうした人間とAIの「協力期」が、AIによる人員削減の前に生じる可能性が高い理由はいくつかある。業務が高度過ぎてAIで代替できなかったり、人間の担当者が複数の業務を担っていたり、失職を恐れる従業員のために企業が人事に手を付けるのを避けたりするためだ。

 しかし、いずれはこれらが解決されてAIによる人間の「置き換え期」がやってくると予想される。

高度な業務の置き換え

 高度な業務の置き換えは、技術の進化で解決できそうだ。タクシーの例でいえば、自動車に搭載される無数のセンサーで収集しているデータが多くの知見を生み出しており、IoTの普及や5Gの整備でさらに深い分析が可能になるだろう。

 街角に設置された防犯カメラ映像や人工衛星画像、SNSの書き込みを分析することでタクシー待ちの客を把握するなど、根本的に異なるアプローチが生まれる可能性もある。

 業務設計を工夫し、現行のAIで対応できるよう業務のあり方を変える方法もあり得る。従業員の仕事の一部はAIでも置き換えられるはずだ。

 業務を整理してその一部をAIに任せれば、従業員にはより高度な課題を任せられる。そうして導入した初歩的なAIを、運用する中で得られたフィードバックを活用し、「一人前」に育てることもできるだろう。

 例えばスウェーデンの銀行であるSEBは、Webサイト上で自動的に顧客対応するバーチャルエージェント「アメリア」(米IPSoft製)を活用しているが、当初はアメリアを社内のITヘルプデスク業務に導入していた。そこで得られた運用ノウハウをもとに、2016年末から顧客対応にも導入したのだ。

 アメリアは、自分だけで問題を解決できないと判断した場合、人間の担当者に指示を仰ぐ。そして人間がどのような対応をしたかを新たなフィードバックにし、改善につなげている。製造元のIPSoftも、こうした教育がアメリアの成功に欠かせないとしている。

 こうした取り組みで、SEBは徐々にアメリアの対応領域を拡大し、現在では顧客100万人以上と直接やり取りさせている。アメリアは顧客の言葉に込められた意図を85%の精度で読み取れるようになっているそうだ。

複数業務の置き換え

 次に1つの職業や仕事が複数のタスクを含み、AIがその一部しか担当できない場合を考えよう。

 このケースでも、前述のように「業務改革でAIが実行できるタスクを切り分け、そこから導入を始める」という対応が可能だ。

 高度な業務を切り分けるのと同様、完全な自動化ができなくても、人間のタスクの一部を肩代わりすることで、これまでと同じ業務量をより少ない人員で担える。

 「人間にしかできないだろう」と思われていた仕事が、一気にAIに置き換えられる例も少なくない。例えばゴールドマン・サックスの場合、ニューヨーク本社で働く株式トレーダーの数は、最盛期だった2000年の600人から、現在はたった2人にまで減少した。同社では全社員の3分の1がエンジニアになったそうだ。

 株式取引の場合、業界全体でデジタル化が進んだという背景もある。しかし同じような変化はどの業界でも起こり得る。ビジネス全体がデジタル化することで、意外な職業があっさりAIに置き換わる事例がこれからも増えるだろう。

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