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» 2019年09月12日 07時00分 公開

「費用度外視でサーバ増やせ」→「無駄なサーバ減らせ」に方針転換 スマホゲーム「シノアリス」運営の裏話

リリース直後、アクセスが集中した「シノアリス」。ピーク時は「Amazon EC2」約600台、「Amazon RDS」約200台を利用し「稼働させることが最優先」だったが、アクセスが落ち着いた今、サーバの削減を進めている。

[片渕陽平,ITmedia]

 ポケラボとスクウェア・エニックスが運営するスマートフォンゲーム「SINoALICE」(シノアリス)は、2017年7月のリリース当初、想定以上のアクセスによってサーバがダウンし、メンテナンスを繰り返す事態に陥った。公開から数日間は、ユーザーがプレイできた時間よりもメンテナンスの時間の方が長かったほどだ。ポケラボの覚張泰幸さん(ゲーム開発事業部 エンジニアマネージャー)は「シノアリスを稼働させることが最優先で、費用度外視でサーバを増やし続けた」と当時を振り返る。

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 アクセスのピーク時、利用している仮想サーバ「Amazon EC2」は650台程度、分散リレーショナルデータベース「Amazon RDS」は200台程度に上った。だが、リリースから2年以上がたち、アクセスが落ち着いた現在の状況は「それだけの規模のサーバを抱え続けるのは、利益を考えると好ましくない」(覚張さん)という。そこでポケラボは、ゲームのコンテンツ作成やプロモーションに費用を割くため、固定費を抑えようとサーバの削減を進めている。

 19年9月現在、利用中のEC2は150台前後、RDSは50台前後で推移している。覚張さんは「一晩のメンテナンスで、月間の費用に換算すると約1000万円のコスト削減につながることもあった」と笑うが、「パフォーマンスを低下させず、費用を大幅に削るのは並大抵のことではなかった」とも話す。

photo アクセスのピーク時、利用していた「Amazon EC2」は650台程度
photo 現在は150台前後で推移しているという

 ゲーム開発者向けのイベント「CEDEC 2019」(9月5日、パシフィコ横浜)で、覚張さんが“必死のサーバ削減”の裏話を明かした。

深夜メンテナンスは2人体制、「ポケラボの未来を語りながら対応」

photo ポケラボの覚張泰幸さん(ゲーム開発事業部 エンジニアマネージャー)

 シノアリスは、「アリス」(不思議の国のアリス)や「スノウホワイト」(白雪姫)など、古典や童話に登場するキャラクターを武装させて戦うゲーム。プレイヤーが1人で進めるストーリーモードに加え、他のプレイヤーと「ギルド」と呼ぶチームを結成し、ギルド同士で戦える「コロシアム」モードを搭載している。

 国内ユーザー数は500万人を突破(19年7月時点)するほどに成長したが、ユーザーの満足度を保つには余分なサーバにかかっているコストを削り、コンテンツ制作などに充てる必要がある。そうした背景から、覚張さんは(1)ゲーム内イベントの仕込みや機能改善なども並行して行う定常メンテナンスでは、リードレプリカの削減やスケールダウンなど時間を要さない作業を行う、(2)データベースの統合・分散など、時間を要するものは深夜メンテナンスで対応する──という方針を採っている。

 覚張さんは「深夜メンテナンスは、膨大な量のデータを取り扱うため時間を要する上に、ゲームの仕様上、ギルドの戦力を分析したり、翌日のギルド戦のマッチングを行うバッチ処理を止めることなく、データベースサーバの移行も進めないといけない」と話す。

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 移行前のデータベースからデータをどのように取得するかを記述するSELECT文、移行先にどのように格納するかを指定するINSERT文を細かく調整する必要もあるなど、「結構気を抜けない状態」という。一方で、深夜メンテナンスは「シノアリスの前田翔悟プロデューサーと2人体制で、ポケラボの未来などを語りながら夜な夜な対応している」とも話し、来場者の笑いを誘った。

 覚張さんは、こうしたサーバ削減・移行の留意点に触れつつ、実践しているテクニックも紹介。移行作業前にスケールアップを行うと、データの出力、移行先での復元作業のスピードが上がるため、「少しでも作業時間を短縮するために有効」と説明する。

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深夜メンテナンスの失敗例も

 このようにサーバ削減の作業を進める覚張さんだが、深夜メンテナンス中、失敗もあったという。17年10月12日には、事前のシミュレーション通りにサーバ移行が進まず、当初の予定よりメンテナンスを45分ほど延長した。これはAmazon RDSのインスタンス障害が原因だったという。

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 しかもこの障害に対応するために行ったフェイルオーバー処理が原因で、ギルド同士をマッチングさせるバッチ処理が中断してしまい、翌日のギルド戦(コロシアム)を開催できなかった。こうした失敗もあるが、覚張さんは「今後も楽しみながら対応を続けたい」と話す。

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photo 見積もりを誤り、予算をはるかに上回る請求が来たことも。覚張さんは「めちゃくちゃ怒られた」と振り返る

 「ゲームを運営する上で、課題は日々変わっていく。シノアリスの場合は『どれだけサーバを増やしてもいいから稼働しなければならない』から『サーバ削減をしないとコンテンツを作ったり、プロモーションを展開したりする費用がない』というように変わった。課題に対する最適な道を模索、選択することが未来につながる」(覚張さん)

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