シャープは9月13日、社内ベンチャーの「TEKION LAB」(テキオンラボ)が開発した「蓄冷材」を新規事業として展開すると発表した。スポーツや医療、美容などさまざまな分野のトップブランドと協業し、2025年までに売上50億円規模の事業に育てる考え。
シャープの蓄冷材は、長年に渡る液晶材料の研究で培った。液体と固体(結晶)の性質を併せ持つ液晶をテレビなどの製品にするには、寒冷地でも凝固しない工夫が必要だ。そのために液晶に混ぜた科学材料が、蓄冷材開発のベースになったという。
シャープの蓄冷材が最初に注目を集めたのは、14年にインドネシアで実施した「冷蔵庫プロジェクト」。電力インフラが貧弱で日常的に停電が発生するインドネシアでは、冷蔵庫に入れても生鮮食品が悪くなってしまう状況だった。そこでシャープは、電力供給が途絶えても数時間は持ちこたえる蓄冷材入り冷蔵庫を開発。冷凍庫にあったアイスキャンディーは6時間も溶けなかったという。
TEKION LABのCEO兼CTO、内海夕香さんによると、現在シャープは蓄冷剤を何種類か開発しており、融点が低いものはマイナス24度、高いものはプラス28度まで幅がある。また用途に応じて一定に保つ温度(相転移温度)を1〜3度刻みで設定できるという。また競合他社と異なり、「プラスの温度帯で使用する蓄冷剤もすべて水がベースになっている」ことも強み。製造が容易でコストも抑えられる。
17年には日本酒の石井酒造とコラボし、クラウドファンディングサイト「Makuake」で−2度の純米吟醸酒「雪どけ酒 冬単衣」を販売した。このとき開発した日本酒専用の保冷バッグは、「TEKION COOLER」と名前を変え、9月19日から市販される。
「TEKION LABの製品がシャープのブランドで商品化されるのは初めて」(内海さん)
シャープが見据えているのは食の分野だけではない。同社Smart Appliances & Solutions事業本部の田村友樹副本部長は、「スポーツの暑熱対策、医療では疼痛のケア、物流では再生用細胞の運搬など、蓄冷材には有望な分野がたくさんある。われわれには(各分野の)知見がないため、それぞれのトップブランドと提携して事業化を進める」と話す。
このうちスポーツ分野では、デサントジャパンと協力し、スポーツトレーニングの実績を持つウィンゲートと共同で暑熱対策になるグローブを開発した。手のひらの部分に12度を保つ蓄冷材を装着し、環境温度の影響を受けにくい深部体温の上昇を抑制する。
「手のひらは熱放散を目的とした血液冷却部位として非常に有効とされている。ただし、冷やし過ぎると血管が収縮して血液の流れを妨げるため、冷たすぎないことが重要」(ウィンゲートの遠山健太社長)。早期の実用化を目指し、今秋から国内外のマラソン、競歩などの競技会で実証実験を実施する。
微細な氷の結晶を含む飲料(アイスラリー)を電源なしで作れる「TEKIONアイスラリーBOX」も開発中だ。アイスラリーは、氷が体内で溶ける際に大量の熱を奪うため、効果的に深部体温を下げる。現在、セレッソ大阪や東北楽天ゴールデンイーグルスなどのプロスポーツチームと実証実験を行っている。
デサントジャパンの小林敏夫マーケティング部長は、「例えば屋外レジャーの熱中症対策としても効果があると思う。今後はより大きな市場が視野に入る」と指摘。20年夏に開催される東京オリンピック・パラリンピックを念頭に、「来年の春にはなんとか市場に出していきたい」とした。
シャープは、蓄冷材の応用分野を広げる。「美容や医療の分野から通勤通学の暑熱対策まで。大きな課題があれば、そこにチャンスがある。海外展開なども含め、(冷却剤事業で)2025年に50億円規模の売上を目指す」
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