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息子を失ったある家族の出来事 亡くなった家族のApple IDやGoogleアカウントは引き継げるか(2/3 ページ)

» 2019年09月18日 07時00分 公開
[古田雄介ITmedia]

 2日後、社内の専門部署の確認を経て、遺族には3つの選択肢があることを告げられる。

(1)Apple IDを無効にする。復旧は不可能

(2)Apple IDを削除する

(3)Apple IDを停止せず移行。知的財産としてアカウントを相続する

 Aさんの希望に沿うのは(3)になる。ただし、iCloudの中身は移行後にしか確認できず、5GB以上のデータが残っているか保証はできないという。しかも(3)の手続きには3カ月から6カ月かかるとのこと。だが、これに賭ける他ない。

 事を進めるには、Apple IDの持ち主が本当に亡くなっていることや依頼者が相続人であること、相続人の総意であることなどを証明する必要がある。具体的には公的な死亡証明書や相続人全員の戸籍謄本などで身元を証明し、アカウントを移行する場合は相続人全員の同意書や印鑑証明で相続人の総意を形にして提出しなければならない。Aさんは10日程度で全書類をそろえて、Appleが指定したページにアップロードした。

 すると、想定よりもずっと早く、申請から半月ほどでApple ID変更の手続き完了メールが届いた。次に、Appleサポートと密に連絡を取りながら、「iCloudにサインイン」ページにアクセスし、ひも付いているiPhoneやiPad、MacBookなどのアカウント設定をリセットした。息子が亡くなるまで使っていたiPhoneはそのまま残しておきたかったので、前に使っていた古いiPhone上に、iCloudのバックアップデータをリストアした。結果的に、息子が亡くなる直前のiPhoneの状態がそこに再現されることになった。

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 手続きの過程で、息子はiCloudの最大容量となる2TBプランを契約していることが分かった。その中身にアクセスしてみると、思い描いた通り、作品の全てが整理されて置かれていた。クレジットカードの停止から1カ月しかたっていなかったこともあり、完全な状態で残されていたようだ。取り急ぎiTunesカードを購入して1カ月分のiCloud料金を支払った。

 こうしてAさんは息子のApple IDとiCloudを引き継ぐことに成功した。データを残せる可能性に賭けて、粘り強く手続きを進めたAさんたちの努力、故人が端末外のクラウド環境にデータをバックアップしていたことなど、さまざまなポジティブ要素が加わっての成功だった。Aさんは「Appleのサポートの方々が私の事情を理解し、継続して親身にサポートしてくださったおかげです」と語る。

Apple IDやGoogleアカウント、Microsoftアカウントは相続できる?

 Aさんの出来事を踏まえつつ、一般にApple IDは相続できるといえるのか。

 Appleのサポートページにある「死亡した家族のAppleアカウントへのアクセスをリクエストする方法」には、「Appleでは、故人のデバイスやiCloudに保存されている個人情報にアクセスするお手伝いをする前に、最近親者の方にお願いして、亡くなられたお客さまの個人情報を相続する権利を持つ人を指名した裁判所命令を入手していただいております」とあり、Aさんのケースとは多少の差異がある。

photo Appleのヘルプページ。所有者のプライバシーを最優先に考える姿勢を明記している

 今回の件を踏まえてアップル広報に確認したところ、「弊社からは回答できることがございません」ということだった。筆者は過去にも何度か質問を同社に送っているが、相続関連の質問には意識的に明言を避けている印象を持っている。遺族には個別に対応しているものの、アカウントの相続可能性を広く告知することには消極的なようだ。悪用を恐れてのことなのかもしれない。

 ともかく、分かりやすい相続ツールのようなものを設ける考えは今のところはないようだ。最短であり正道といえるのは、サポート窓口に個別相談することといえる。

 では、他の主要ITサービスのアカウント相続対応はどうなっているのだろうか。

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