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血液クレンジングに京都盛り上げツイート、ステマ騒動に学ぶSNSの自己防衛(2/3 ページ)

» 2019年11月07日 17時42分 公開
[本田雅一ITmedia]

インフルエンサーマーケティングの基本「ギフティング」

 そもそもステルスマーケティングとは、マーケティング費用を投下していることを隠した上で、自主的に特定の商品を高く評価しているように見せかける行為、あるいはそうしたことを意図した施策だ。優良誤認を意図しているかどうかは関係なく、有償で宣伝を依頼されたことを隠し、何らかの製品やサービスを推薦する発信を行ったとすれば、それは全てステマということになる。

 また、報酬を得ていなかったとしてもステマと判断されることがある。例えば「ギフティング」だ。

 ギフティングは、品物を渡したりサービスを無料(あるいは超低廉)で提供することで「知ってもらい」、得た体験が良いものだったなら「ぜひ、御自身で発信してください」とお願いすることを言う。例えば腕時計ブランドのダニエル・ウエリントンは、ドラマなどへのプロダクトプレースメント(俳優などが演じる際に身につける商品を提供する)や、有名人やモデル、インフルエンサーに、SNSでの露出と引き換えに商品をプレゼントすることで知名度を高める戦略をグローバルで進めた。

シンプルなデザインでファンも多い腕時計ブランド「ダニエル・ウエリントン」

 彼らのギフティングは隠れて行ったわけではないため「ステルス」とは言えないが、Instagramなど写真を主体とするコミュニティにおいては、写真の中にスタイリッシュに映り込めば、それだけでPR効果を発揮することもある。後でギフティングの事実を知り、ステマだと考える人もいる。

 米国や英国では罰則規定もあるステマ行為だが、日本では罰則がないため業界の自主規制でルール作りが行われてきた。昨今、ハッシュタグ「#PR」などが付与されることが増えているのはこのためだ。

 金品の授受が後で発覚すると、スポンサー側も発信者側もダメージが大きい。このため基本的には特に品物の贈呈を隠してはいないギフティングの場合でも「#PR」を付加して投稿することが多い。

効果を証明しにくい医療分野で悪用される口コミ

 血液クレンジングに話を戻そう。

 血液クレンジングの特徴は(多くの場合)、特に身体に害が及ばないものの、視覚的効果が大きく施術を受けた人が「きれいになった」と思い込みやすいことにある。直ちに怪我や病気が治るわけではないが、専門家である医者が「いい」と言っているのだから、長期的には「身体にいいに違いない」と思い込んでしまう。

 よく似た治療メニューに、高濃度ビタミンC点滴がある。通常、食物や錠剤などからは体内に取り入れることができないほどのビタミンCを点滴によって血中に入れることで、例えば肌のシミなどが薄くなるといった美容効果をうたう。一時期、「美魔女」という言葉が流行したが、美容誌ライターに話を聞くと、美容誌に出てくる美魔女の皆さんは、ほぼ例外なく定期的な高濃度ビタミンC点滴を受けていたそうだ。

 ところが、ビタミンCの抗酸化作用で「免疫力が高まる」とし、風邪をひきにくい、アトピーや各種アレルギー性疾患が改善する、果ては免疫力を高めて癌にも有効だ、と「言われている」などと宣伝しているクリニックもある。しかし、免疫はシステムだ。有効な免疫療法だったとしても、システムは正常に機能し始めて効果がハッキリするまでには長い期間が必要で、その効果を評価することは極めて難しい。

 例えばがんを患った人が、全身化学療法(抗がん剤)をしているときに高濃度ビタミンC点滴を受けたとする。症状に改善が見られたとして、一体どれが効果を発揮したのか見分けがつかない。そのため「悪いことがないなら、やっておいた方がいいのかも」と試す人が出てくるわけだ。

 「身体には良さそうだから試しておきたい」。そんな気持ちを利用したマーケティングは、SNSのみならず、雑誌やテレビの通販などでもよく行われている。その商品が高齢者の集まりなどで話題になることも。SNSに限らず、明確な効果が評価できない商品やサービスの口コミを、誰でも知らないうちに発信してしまう可能性がある。ただ、会話はその場で消えるのに対し、ネットでは残り続け、不特定多数の人が見る。その違いは常に意識しておくべきだ。

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