本件における原告の主張を極めてざっくりまとめると、「学習済みモデルのバイナリコードの納品を受けているが、それ以外にも、学習用データセット、学習用プログラム、ハイパーパラメータ、学習済みモデルを引き渡してほしい。もし引き渡さないのであればそれらの知的財産権が原告に帰属していることを前提に、それらの知的財産権の侵害に基づいて損害賠償請求をする」というものです。
法律的に整理すると以下の通りです。
1 引渡請求
(1) 学習用データセットの引渡請求
(2) 学習用プログラム及びハイパーパラメータの引渡請求
(3) 学習済みモデルのソースコード引渡請求
2 損害賠償請求
(1) 学習用プログラム及びハイパーパラメータに関する著作権及び特許を受ける権利行使の妨害による損害賠償請求
(2) 学習済みモデルのソースコードに関する著作権及び特許を受ける権利行使の妨害による損害賠償請求
それでは、この事案において原告・被告の間で締結された開発契約はどのようなものだったのでしょうか。原告・被告は、2009年に経産省が作成・公表したITシステム開発のモデル契約どおりの契約を締結していました。
【参考リンク】
経済産業省商務情報政策局情報処理振興課「〜情報システム・モデル取引・契約書〜(受託開発(一部企画を含む)、保守運用)〈第一版〉」
契約書のうち関係する条項のみを抜粋し、さらに適宜簡略化したのが以下の通りです。
(納入物の納入)
第26条 乙は甲に対し、個別契約で定める期日までに、個別契約所定の納入物を検収依頼書(兼納品書)とともに納入する。
2. 甲は、納入があった場合、次条の検査仕様書に基づき、第28条(本件ソフトウェアの検収)の定めに従い検査を行う。
3. 乙は、納入物の納入に際し、甲に対して必要な協力を要請できるものとし、甲は乙から協力を要請された場合には、すみやかにこれに応じるものとする。
4. 納入物の滅失、毀損等の危険負担は、納入前については乙が、納入後については甲が、それぞれこれを負担するものとする。
(資料等の提供及び返還)
第39条 甲は乙に対し、本契約及び各個別契約に定める条件に従い、当該個別業務遂行に必要な資料等の開示、貸与等の提供を行う。
2〜4 中略
5. 甲から提供を受けた資料等(次条第2項による複製物及び改変物を含む。)が本件業務遂行上不要となったときは、乙は遅滞なくこれらを甲に返還又は甲の指示に従った処置を行うものとする。
6. 略
(資料等の管理)
第40条 乙は甲から提供された本件業務に関する資料等を善良な管理者の注意をもって管理、保管し、かつ、本件業務以外の用途に使用してはならない。
2. 乙は甲から提供された本件業務に関する資料等を本件業務遂行上必要な範囲内で複製又は改変できる。
(秘密情報の取扱い)
第41条 甲及び乙は、本件業務遂行のため相手方より提供を受けた技術上又は営業上その他業務上の情報のうち、相手方が書面により秘密である旨指定して開示した情報、又 は口頭により秘密である旨を示して開示した情報で開示後10日以内に書面により内容 を特定した情報(以下あわせて「秘密情報」という。)を第三者に漏洩してはならない。但し、次の各号のいずれか一つに該当する情報についてはこの限りではない。また、甲及び乙は秘密情報のうち法令の定めに基づき開示すべき情報を、当該法令の定め に基づく開示先に対し開示することができるものとする。
(略)
2〜4 中略
5. 秘密情報の提供及び返却等については、第39条(資料等の提供及び返還)を準用する。
6. 以下略
(納入物の特許権等)
第44条 本件業務遂行の過程で生じた発明その他の知的財産又はノウハウ等(以下あわせて「発明等」という。)に係る特許権その他の知的財産権(特許その他の知的財産権 を受ける権利を含む。但し、著作権は除く。)、ノウハウ等に関する権利(以下、特許権 その他の知的財産権、ノウハウ等に関する権利を総称して「特許権等」という。)は、 当該発明等を行った者が属する当事者に帰属するものとする。
2. 甲及び乙が共同で行った発明等から生じた特許権等については、甲乙共有(持分は貢献度に応じて定める。)とする。この場合、甲及び乙は、共有に係る特許権等につき、それぞれ相手方の同意及び相手方への対価の支払いなしに自ら実施し、又は第三者に対し通常実施権を実施許諾することができるものとする。
3〜4 略
(納入物の著作権)
第45条 納入物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。以下同じ。)は、乙又は第三者が従前から保有していた著作物の著作権及び汎用的な利用が可能なプログラムの著作権を除き、甲より乙へ委託料が完済されたときに、乙から甲へ移転する。なお、かかる乙から甲への著作権移転の対価は、委託料に含まれるものとする。
2. 甲は、著作権法第47条の3に従って、前項により乙に著作権が留保された著作物につき、本件ソフトウェアを自己利用するために必要な範囲で、複製、翻案することができるものとし、乙は、かかる利用について著作者人格権を行使しないものとする。また、本件ソフトウェアに特定ソフトウェアが含まれている場合は、本契約及び個別契約に従い第三者に対し利用を許諾することができるものとし、かかる許諾の対価は、委託料に含まれるものとする。
個別契約抜粋
1.作業範囲
X社の食品工場の製品(商品名○○)の製造ラインにおけるAIを利用した不良品検出システム開発、テスト及びドキュメント類作成
2.納入物
(以下略)
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