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» 2019年11月08日 07時00分 公開

「STORIA法律事務所」ブログ:AI開発にまつわる紛争や訴訟リスクを減らすには? 弁護士が解説 (1/5)

AI開発ではどういった紛争や訴訟が起こりうるのでしょうか。AIや知財に詳しい柿沼弁護士が解説します。

[柿沼太一,ITmedia]

この記事は「STORIA法律事務所」のブログに掲載された「史上初めてAI開発契約の効力が争われた(模擬)裁判で裁判官を務めた話」(2019年11月1日掲載)を、ITmedia NEWS編集部で一部編集し、転載したものです。

はじめに

 ユーザーが保有しているデータをAIベンダーに提供し、AIベンダーの技術力・ノウハウを利用して学習済みモデルを生成してユーザに納品するというAI開発は現在盛んに行われています。

 当事務所でもAI開発案件を多数法務サポートしておりますが、私の知る限り、AI開発のトラブルが裁判まで発展したケースはありませんでした。

 今回は、おそらく史上初めてAI開発契約の効力が争われた裁判をご紹介したいと思います。

 といっても、2019年10月28日に東京弁護士会主催で行われたAIシンポジウムの企画の一環として行われた模擬裁判のお話です。もちろん、弁護士会が主催する以上、模擬裁判といってもお遊びではありません。

 裁判長役には知財の世界では知らない者のいない超ビッグネーム三村量一先生を迎え、テーマは、「AI開発契約であるにもかかわらず、従前のシステム開発の契約書を利用して契約を締結した場合、どのようなことがリスク事項になり得るのか、また、訴訟において、どのような点に注意をする必要があるのか」というものでして、まさに今後頻発しそうな紛争類型です。

 私は模擬裁判における陪席裁判官役を務めましたので当日の内容についてご報告をいたします。なお、本稿は、事案の理解のために適宜改変・省略をしておりますが、不正確な部分があれば文責は全て柿沼にあります。また、意見・コメントについては柿沼の個人的な意見・見解です。

事案の概要

*なお、「学習用データセット」や「学習済みモデル」の各種用語の定義は、経済産業省の「AI・データ契約ガイドライン」に準拠したものとなっていますので、そちらをご参照ください。

1 X社は食品の製造メーカー、Y社はAI開発を行っているベンダーである。

2 X社がY社に対してAIを含む不良品検出システムの開発を発注した。具体的には食品工場における製造ラインの最終検査工程において、製品の画像から自動的に不良品を検出するシステムである。

3 Y社は、以下の工程を経て、本件不良品検出システムを開発した。

(1)X社から提供を受けた製品のサンプル画像1万枚を加工して本件学習用データセットを作成。

(2)本件学習用データセットを用いて、ディープラーニングの手法を取り入れた本件学習用プログラムで学習させ、製品の画像から自動的に不良品を検出する本件学習済みモデルを開発。

(3)本件学習済みモデルを組み込んだ本件不良品検出システムを開発。

(4)Y社はX社に対し、本件学習済みモデルを組み込んだ本件不良品検出システムを納品した。なお、開発過程において作成された本件学習用データセット、本件学習用プログラム、本件ハイパーパラメータなどは納品されていない。また、本件学習済みモデルを組み込んだ本件不良品検出システムは、ソースコードではなくバイナリコードの形式で納品されている。

4 X社は、納品された本件不良品検出システムを運用していたが、その後、納品された本件不良品検出システムについて、さらに精度を上げるために改良すること、また、他の製品の製造ラインにも同種のシステムを組み込むために、納品された本件不良品検出システムを改変することを考えた。ただ、Y社の報酬が高いため、別のベンダーに発注をかけようとした。

5 X社は、Y社に対し、以下の要求をしたが、Y社は拒絶した。

(1) Y社が上記3(1)で作成した本件学習用データセットの引き渡し(開示)

(2) Y社が上記3(2)の本件学習済みモデルを作成するときに利用した本件学習用プログラムや本件ハイパーパラメータの引き渡し(開示)

(3) Y社が上記3(3)で開発した本件学習済みモデルのソースコードの引き渡し(開示)

6 X社はY社に対し訴えを提起した。

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