・学習用データセットの引渡請求について
納品物(「ソースプログラム」)には含まれない。「秘密情報」の「改変物」に該当する可能性はあるが、生データをどの程度加工したかという程度問題となる。
・学習用プログラム・ハイパーパラメータの引渡請求について
納品物(「ソースプログラム」)にも「秘密情報」の「改変物」にも含まれない。
・学習済みモデルのソースコードについて
納品物(「ソースプログラム」)には含まれ引き渡し請求の対象となると思われる。ただし、バイナリコードを納品した後の状況や開発契約締結交渉のやり取り次第では、認められない可能性もある。
・学習済みモデルの著作権や特許を受ける権利について
著作権については、学習済みモデルが納品物(「ソースプログラム」)に含まれるため、原則としてベンダーからユーザーに移転する。ただし「汎用的な利用が可能なプログラム」に該当すればベンダーに著作権が留保されるが、同「汎用的な利用が可能なプログラム」の意味を「若干のカスタマイズをすることで同種案件において使いまわしが可能なプログラム」という意味で捉えると、学習済みモデルのソースコードは、「汎用的な利用が可能なプログラム」に該当するのではないかと思われる。
特許を受ける権利については、ユーザーが発明者になるかはケースバイケースだが、単にデータを提供しただけとか、委託料を支払っただけではユーザーが発明者になることはない。
できるだけ裁判沙汰なんて起こらない方が良いので、私が普段の業務を通じて感じている、そして今回の模擬裁判に参加して感じた「AI開発において紛争が発生することを防止するための方策」について簡単にまとめてみたいと思います。
・AI開発に際して一般的なITシステム開発契約のひな形や業務委託契約のひな形をそのまま使わないこと。
通常のITシステム開発とAIシステム開発とでは、法的・知財的にかなり異なりますので(もちろん共通する部分もあるのですが)、AIシステム開発の際に、今回のように一般的なITシステム開発契約のひな形をそのまま使うことは危険です。
できるだけ、経産省のAI・データガイドライン付属のモデル契約か、JDLA(日本ディープラーニング協会)のモデル契約をベースに交渉をすることで無用な紛争を避けることができると思われます。
・開発契約締結交渉の際にユーザー・ベンダー双方でAIを利用してどのようなビジネスをするのかのゴールを明確にすること、及びそのゴール達成のために契約条項をどのように設計するかをよく検討し、双方よくコミュニケーションをとること。
→これを言ったら身もふたもないのですが、ハードに契約締結交渉をした場合、後々契約の効力や解釈が問題になることは少ないんですよね。交渉過程で論点がほぼ出尽くし、双方が徹底的に検討したうえで契約が締結されているので。むしろ、双方何もコミュニケーションをせず、単に金額と納期だけ合意し、あとはシステム開発契約だからいつものひな形使っておけば大丈夫だよね、という姿勢(まさに、今回の模擬裁判の事案がそうだったのでしょう)が一番危ないと思います。弊所が法務サポートするAI開発案件はいずれも相当難しい交渉になることが多いのですが、その意味では後日の紛争発生可能性はかなり低い(はず)です。
・(特にユーザー側は)契約書やベンダーとのやり取りに出てくる言葉で理解ができない表現があれば、きちんとベンダーに確認すること。
→今回は「ソースプログラム」という言葉の意味が問題となりましたが、特にユーザー側の場合、契約書やベンダーとのやり取りにおいて分からない言葉が出てくればきちんと確認すべきだし、場合によっては自分でいろいろ調べたり勉強をした方が良いと思います。もちろん、通常のシステム開発同様AI開発契約においてもベンダーにプロマネ義務は存在しますが、ユーザー側も自衛手段を講じる必要性は特にAIの場合は高いと思います。
弁護士・柿沼太一
1997年京都大学法学部卒業。2000年弁護士登録(第52期)。顧問先企業として、AI・ITベンダ、モノづくり中小企業、アニメ・コミック・ゲーム系コンテンツ制作会社、その他ベンチャー多数(IT、WEB、AI、バイオ)を抱える。特に最近は様々なジャンル(医療・製造業等)のAIベンダからの依頼が急激に増加している。AI法務・知財に関するブログ記事を多数執筆しており好評。また、AIの開発・利用・責任に関するセミナーも多数開催している。経産省「AI・データ契約ガイドライン」検討会検討委員(〜2018.3)。
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