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「まずは正しく失敗したい」 経産省が“AI人材育成”に挑戦する理由これからのAIの話をしよう(産業政策編)(3/4 ページ)

» 2019年11月29日 07時00分 公開
[松本健太郎ITmedia]

小泉氏:実証の結果は全てオープンにする予定です。これまで、さまざまな企業のAI事業責任者や人材育成担当とお話しましたが、人材育成に関する課題感はどこも大体同じで、なかなか着手できていなかった。だったら、国がノウハウや知見を集めて実証し、うまくいったこと、いかなかったことを明らかにして、これをやるべきだという座標軸を明らかにしていきたいなと。

マスクド:人材育成に関しては、組織ごとに考えが異なりますよね。

小泉氏:確かに、データサイエンスを重視する方々はデータの前処理からしっかり学ぶことを大事にしていたり、AIベンダーの方々はプログラミングレスに教えていくべきと考えていたりと、立場によって考え方はさまざまです。

マスクド:経産省には、そこをまとめてほしいと思いますね。民間同士でとりまとめようとするとケンカになってしまうので。

小泉氏:みんなで同じようなことを課題と考えているなら、プロレスでいうところの統一団体を作れば良いですよね。各団体の立場も尊重しつつ、力を合わせられる部分はあると思っていますし、それが経済産業省の役割だと思っています。

「まずは正しく失敗したい」 注力するのは“場作り”

マスクド:現場で活躍できる人材育成を目指すとなると、AIを実装できる能力だけでなく、課題発見や問題解決の能力も重要になりますね。先ほどMBAのケーススタディという言葉が出てきましたが、こうした能力がトータルで身に付くと考えれば良いのでしょうか。

小泉氏:まさにそれを実証実験中です。社会人100人、学生100人が集まってみんな真剣にやっていますよ。オンラインで社会人と学生が議論したり、オフラインで集まって発表し合ったり質問しあったり、活気があります。

マスクド:切磋琢磨(せっさたくま)する様子は、プロレスの道場のようですね。場があって、指導者、先輩、後輩、同期がいて、ファンがいる。そして、お互いぶつかり合って個性を出す。

小泉氏:先ほどMBAと言いましたが、コンサルタントを育成したいわけではありません。AIやデータサイエンスの視点で課題を絞り込む際に、これまでは技術の観点で考えすぎてしまう傾向があったと感じます。ケーススタディを通した疑似経験学習を通して、ビジネスと技術がどう結びつくかや、どうすればその気付きを得られるのかなどを明らかにしたいんです。まだ何が効果的なのかが分かっていないので、まずは正しく失敗していきたいと思います。

マスクド:失敗が経験になるのは、正しいPoC(概念実証)ですね。経済産業省はお堅い組織のイメージがあったので、もし「失敗=マズい、絶対にあってはならない」と考えていたら、それは一番良くないなと思っていました。

小泉氏:この挑戦は、経済産業省の中では珍しいのではないかと思います。通常の政策は、やるべきことの筋が見えていることがほとんどです。何をするとどうなるかが分かった所で、ようやく予算が出ますから。AI人材育成についてはそう言ってもいられない、ということなのかなと。とはいえ、AI Questはいろいろな方から、よく政策にまで持っていけたねと言われます(笑)。

マスクド:だからこそ、経済産業省としてやる意義があります。

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