災害大国といわれる日本。昔から台風や洪水、地震、火山の噴火など、さまざまな自然災害に見舞われてきたこの国では、その記憶を失わないよう、災害時の様子や教訓などを石碑などに遺してきた。そのような先人たちのモニュメントを、国土地理院が6月から「自然災害伝承碑」として地図に掲載する取り組みを始めている。
この取り組みでは、全国の自治体と国土地理院が連携し、新たな地図記号を決めて同院が提供するWeb地図サービス「地理院地図」に自然災害伝承碑の掲載を始めた。9月にはこの地図記号を掲載した初めての2万5千分1地形図も刊行している。
専門新聞社や出版社勤務を経て、1999年よりフリーランスライターとして活動。ITの中でも地図や位置情報を中心テーマとして取り組む。測量士。
地理院地図の画面で、左上の「情報」をクリックし、表示された情報リストの中から「自然災害伝承碑」を選ぶと、「洪水」や「土砂災害」「高潮」「地震」「津波」など災害の種別リストが表示される。いずれかを選択すると地図上に自然災害伝承碑の地図記号が現れる。
地図記号をクリックするとウインドウがポップアップし、災害名や写真が表示される。詳細情報を見るときは画像をクリック。碑名や災害発生時期、所在地、碑の建立年などに加えて、伝承内容の説明も掲載されている。
説明文は、碑文の内容に死者数や損壊した建物など被害の規模を示す情報を補足し、100字程度に要約したもの。古い石碑は字が読みにくいことも多いが、自然災害伝承碑の情報は簡潔に要約されていて分かりやすい。
洪水関連の自然災害伝承碑の中には、水没したときの水位を記したものもある。例えば埼玉県の長瀞町にある「寛保洪水位磨崖標」(かんぽこうずいいまがいひょう)は、江戸時代の豪雨で荒川が氾濫した際、この場所まで水没したことを示している。
周囲は秩父盆地で唯一の水の出口で、極端に川幅が狭くなっている。寛保2年(1742年)、旧暦の7月27日から4日間も続いた大雨により、川の水位は18メートル上昇、流域一帯に大きな被害を与えたといわれている。地元の有志、四方田弥兵衛と滝上市右衛門は、山ぎわにある岩に、そのとき最も高かった水位を示す「水」の文字を刻んで後世に残した。地理院地図では、このような先人が遺したメッセージが各地に存在していることが分かる。
自然災害伝承碑は、6月の初公開以降も順次追加されており、11月5日の「世界津波の日」に合わせ、新たに津波災害関連の自然災害伝承碑も掲載された。11月現在、43都道府県120市区町村の372基の情報が公開されている。同院によると、今後も市区町村に情報提供を呼びかけ、定期的に情報を公開、更新していくという。
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