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「ステマとは何か」を考える 歴史的経緯と対策の現状otsuneの「燃える前に水をかぶれ」(3/4 ページ)

» 2019年12月24日 13時28分 公開

ステマの法規制

 ステマは米国では連邦取引委員会(FTC)が2009年12月に違法化をしており、広告主が法的責任を負うことになりました。英国も2008年にCPUTR2008「不公正取引からの消費者保護に関する規制」で違法化をしています。

 日本において消費者庁は景表法と特商法の「有利誤認」など不当表示や誇大広告に関してだけ規制をしており、ステマ行為に関しては「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」ガイドラインで警告をしているのに留まっています。つまり日本ではステマは法規制はされていません。

 ただし、法規制ではないが広告業界の自主的な規制ルールは存在します。

JIAA(一般社団法人日本インタラクティブ広告協会)やWOMJ(WOMマーケティング協議会)など広告業界団体が記事広告や商品提供記事における広告主と情報発信者との「関係性の明示」を義務化したガイドラインを2010年から2017年にかけて作成して公開しています。

 そして個人ブロガーに関わるJAO(日本アフィリエイト協議会)も現時点(2019年12月)では公開されていませんが、関係性の明示についてのガイドラインを来年1月中公開に向けて準備していると取材に対して返答がありました。

日本アフィリエイト協議会(JAO)公式サイト上においても、アフィリエイト関係者の皆様向けに、ステマを防止するためのレビュー施策の取り組み方や、関係性の明示に取り組んで頂けない個人・法人に対する業界団体としての対応をまとめたページを近日中に掲載させて頂きます。

 読者の立場からすると、アメリカやイギリスのように日本もステマを法規制すればよいのではないかと考えると思います。

 2018年9月の消費者庁「第30回インターネット消費者取引連絡会」においてWOMJは「動きの速いWOMマーケティング業界では法規制はかえって消費者保護の⾜かせになる恐れ」「ここまでならOKという発想を⽣み出しやすい」と、ステマ違法化のデメリットについて主張しています。

 筆者もその意見には同感で、仮に違法化することによって厳密にステマ行為が定義されると、そのルールの穴をついてグレーゾーン業者が「お墨付き」を得ることが予想できます。同時にステマを使わずまっとうにメディア運営をしようと考えていた優良企業が、規制リスクを嫌がって撤退する選択をしてしまいかねません。つまり、ステマや広告の現状が、読者にとっても経済活動にとってもより悪化する事態を招きかねないと考えられます。

 特にインターネットは進化のスピードが非常に早く、法整備が次から次に出現する新システムに追いつくのは困難ではないかと思います。

ステマではない行為がステマ呼ばわり

 2012年、2015年そして2019年とステマはたびたび大きなネット炎上を起こしている話題です。

 JIAA、WOMJ、JAOなどのガイドラインではPRタグなど明確に広告であることの表示のルールが決められていますが、解釈に幅があり悪く言うと脱法的に使われている項目もあります。

 「広告主体者の明示」「マーケティング主体の名称表記」がそれで、広告主が誰であるのかを明確に表示すればPRやADなどタグがなくても広告だと読者はわかるだろうという理屈です。

 ネットではバナー広告の効果が薄いという話が有りましたが、同じようにPRタグやADタグがついた投稿は広告効果の認知が下がるという実情が存在するようです。

 ゆえに広告業界側には「ガイドラインには従っているように解釈できるが、可能であればPRやADと書かずに広告を見せたい」というインセンティブが存在します。

 つまり読者と広告の騙し合いとも言える現状があります。

 そうなると読者側にも「これはステマではないのか?」とあらゆる投稿にステマ疑惑を持つようになる流れが出来てきました。

 企業のオウンドメディアに掲載されている自社製品の紹介記事なのに、「PRとついてないからステマだ」と苦言をSNS投稿されてしまう。もちろん会社の宣伝を自社のWebサイトに載せるのは誰が見ても宣伝と明確なのでステマではありません。

 作品に出演した俳優や声優が、レギュラー番組で作品について宣伝をすると「ステマだ」と批判される。これも演者という関係者からのただの「告知」であって、定義的にもステマではありません。

 自社オウンドメディア記事広告は、例えば「ブラウザのURL欄を見て、会社名とドメイン名の一致が判断できる」というデジタルリテラシーを要求しますし、レギュラー番組での出演作品告知も「情報発信者が作品当事者である」という知識による判断力が要求されます。

 リテラシーをあまり要求せず広告であることを伝えられる万能表記としてPRタグが使われていますが、伝わるがゆえにバナー広告のように広告効果が下がるため、業界側からはできれば避けたい手法になっています。

 ネット炎上の視点でも「ステマ私設警察」という状態になり、例えば自腹購入した食品や商品を「勝手レビュー」している個人の投稿や記事に「PRや提供の表示がないからステマだ」などと疑惑を向ける現象が発生していたりします。もちろん濡れ衣ですが、企業やブランドイメージは悪化します。

 ステマを指示していることの証明は、PRと書くな指示書や記事執筆者の告発証言で原理的には可能ですが、逆にステマを指示していないことの証明は不可能です。世に存在しないことを示すことは「悪魔の証明」となりますので。

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