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「クラウドは信頼できない」は本当か? AWS、Office 365、自治体IaaSの障害を経て、私たちが知っておくべきこと(2/3 ページ)

» 2019年12月27日 07時00分 公開
[谷川耕一ITmedia]

知っておきたいデメリット

 一方、パブリッククラウドにはデメリットもある。可用性はそれなりに高いとはいえ、サービスプロバイダーが用意している可用性機能を適切に採用していなければ、求める可用性レベルは維持できないのだ。

 例えば、コストを削減するためにAWSをシングルアベイラビリティーゾーン(AZ)で利用していると、SLA(Service Level Agreement)がマルチAZを前提としているサービスでは、ベンダーの定めている高いレベルの可用性は担保されない。

 AWSで障害が起きた際も、一部では「シングルではなくマルチAZを採用していれば、ユーザー企業はサービス停止を防げたのではないか」と指摘する声が出ていた。

 また、アプリケーションの条件に応じて、可用性のレベルを設計する手間がかかるのもパブリッククラウドのデメリットだといえる。

 例えば、もしIaaSに障害が起きた場合、一般的なECサイトなどのアプリは数秒〜数十秒停止しても、打撃は少ないかもしれない。しかし大規模なECサイトなどは、数秒止まるだけでも多くのユーザーに影響し、クレームや売上減につながる危険性がある。

 そのため、ユーザー企業は、自社サービスに求められる可用性のレベルに応じ、パブリッククラウドが用意している可用性機能を組み合わせる必要がある。ただし、より可用性を高めようとすれば、コストも高くなってしまう。

 これらの課題点を知った上で、ちょうど良いコストと可用性のレベルを見極めることが、パブリッククラウドを効率よく使いこなし、障害に対応する上での鍵となるだろう。

自治体IaaS問題を機に再確認したい、バックアップの重要性

 今回の自治体向けIaaSの障害を踏まえ、筆者があらためて企業に周知したいと感じたのが、バックアップの重要性だ。

 パブリッククラウドを運用する上では、可用性を高める冗長化と、データやシステムを保護するバックアップは別物と捉えるべきだ。「クラウドサービスは十分な冗長化がなされているので、ユーザー企業はバックアップを取らなくても大丈夫では」といった意見をまれに耳にするが、そんなことはない。

photo 記者会見で謝罪する、日本電子計算の経営陣。左から、河和茂取締役、山田英司社長、藤井浩司取締役、神尾拓朗部長

 どんなに冗長化していても、大規模な災害や人為的なミス、データセンターのシステム障害、ランサムウェアへの感染――などでクラウドサービスが停止し、復旧が難しくなる可能性は残る。そのためにも、きちんとバックアップを取り、任意の時点の状態にシステムを戻せるようにすることは重要だ。

 これらの知識は当たり前のことに思えるかもしれないが、自治体向けIaaSのJip-Baseでは、そのバックアップデータが一部システムでうまく取得できていなかったため、システム復旧にかなり手間取っている。大手ベンダーでもこうした事態が起きるのだ。今回の問題は、バックアップをきちんと取得・管理するという基本の大切さを世間に周知する役割を果たしたかもしれない。

 一般企業には、バックアップはきちんと取得したものの、一度も復元のテストをしたことがないシステムもあるだろう。テストを行っていない場合は、障害が起きてから始めてバックアップ機能を利用し、復元を試みてもうまくいかないことが多い。

 そのため最近は、さまざまなバックアップベンダーが、仮想化技術などを使って迅速にバックアップからの復元テストをするシステムを提供している。万が一の障害に備え、これらの助けを借りてテストを行っておくのも1つの手だ。

 障害が発生し、既存のクラウドサービスでシステム環境を復旧できない場合も、バックアップデータさえあれば、他のクラウドサービス上でシステムを復元できるケースもある。昨今注目を集めるマルチクラウドの技術には、こうした使い道もあるのだ。

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