ではARはどうだろうか?
こちらでは、今もスマホARがメインである。ただしスマホARは、スマホVRとは違う道を歩き始めている。まずはここが本流であり、開発リソースも注ぎ込まれている。
このジャンルをリードしているのはAppleだ。AppleがiOSおよびiPadOSに搭載しているARフレームワーク「ARKit」の存在が、スマホARをリードしている。
AppleはAR専用デバイスをまだ発表していない。だが、その開発はほぼ既定事実であり、同社がAR市場に期待を抱いていることも隠さない。今のiPhoneやiPadでもARはできるが、そこでできることは限られている。
それでも、ARKitを率先して開発しているのは、その先に新しい可能性があり、そのためのデバイスを模索しているからだ。ARKitのおかげで多くのデベロッパーは、気軽にARアプリ開発を試せる環境にある。特に今年からは、人などのシルエットを認識した上で物体との前後関係を自然に生み出す「オクルージョン」に対応したことで、いろいろとアプリの可能性も広がった。MicrosoftからARアプリである「Minecraft Earth」が出たのも、ARKitあってのことであり、Microsoft自身がARのための環境を整えていることとセットで考えるべきだ。
そして今年大きかったのは、コードを書かずにAR体験を作れるアプリが複数生まれたことだ。Appleは無償で「Reality Composer」をiOS・iPadOS・macOS向けに提供しているし、Adobeは11月に「Adobe Aero」の無償公開を始めた。
現状のこれらのアプリは、ちょっとしたデモや教育コンテンツを作るくらいのことしかできない。いわば、AR版のPowerPointといった趣だ。だが、その先にはいろいろなことが待っている。
Adobeは11月に開催された年次開発者会議「Adobe MAX 2019」で、ARグラスを使った世界を描いたPVを公開した。なぜアドビはPVを作ったのか? それは、Adobe Aeroの存在と大きく関係する。
AdobeのCPO(最高製品責任者)であるスコット・ベルスキー氏は、狙いを次のように説明する。
「弊社が提供している『Adobe XD』とAeroを比較して考えるとわかりやすい。XDはデスクトップやモバイルでの体験をデザインするアプリケーションだが、Aeroは3Dの没入感が高く、リアリティのある世界での体験をデザインするアプリケーションを狙っている」
すなわちAdobeとしては、「ARやVRアプリのUIを作る市場」が今後大きくなり、そこにはツールの市場もある、と考えているわけだ。PVはそうした「ARプロトタイピンクツール」の先にある可能性を示すものだったのだ。
現状Adobeはそうしたツール開発について、Appleを最優先プラットフォームとしている。AndroidでもGoogleが「ARCore」を提供しており、こちらも順調に進化している。
だがAdobeは「問題なのは数。iPhoneなどARKitが使えるデバイスの数は、昨年までで9億台以上。一方でARCoreに対応するAndroidは1億5000万台以下です。Android側の数がもっと増えてくるまでは、iOS向けで開発を進めていくことになる」(Adobe バイスプレジデント AR室長のステファノ・コラッツァ氏)としている。
2019年のARは準備の段階だが、その「準備段階」ではAppleがGoogleのかなり先を走っており、2020年もこの差はゆっくりとしか埋まらないだろう。
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