2020年1月の「CES 2020」で、トヨタ自動車が静岡県に実験都市を建設するという計画を発表しました。自動運転やロボット、スマートホームなど、最先端の技術を取り入れた未来都市が作られるという報道に、明るい未来を夢見て胸が躍った方もたくさんいらっしゃると思います。
実は私、この報道を見てほんの少し既視感を覚えました。いまから50年以上前、1966年に発表された「EPCOT」という計画です。あるビジョナリーが当時としては最先端の技術を用い、未来都市を作り出そうとしていたものでした。そのビジョナリーとはウォルト・ディズニー。あのディズニーランドを作り出したその人です。
この連載では、一見ITとは無関係に見えるテーマパークと、最先端の技術をつなぐお話を短期集中でお届けしたいと思います。どうぞお付き合いください。
老若男女の笑顔があふれるテーマパーク。その裏側には、AR/VR、ビッグデータ分析など来園者をもてなす最新テクノロジーの数々が隠れています。人々を魅了するエンターテインメントは、どのようにして創られているのでしょうか。宮田健氏が解説します。
ITセキュリティに関するフリーライターとして活動する傍ら、“広義のディズニー”を取り上げるWebサイト「dpost.jp」を1996年ごろから運営中。パークやキャラクターだけではない、オールディズニーが大好物。ポッドキャスト「田組fm」も、SpotifyやApple Podcastsで配信中。
ウォルト・ディズニーとはご存じのように、あの「ディズニーランド」を作り出した人です。そもそもは映画人であり、ミッキーマウスが出演した世界初のトーキーアニメ「蒸気船ウィリー」を作り出し、世界初のカラーアニメ作品「花と木」、そして世界初の長編アニメーション作品「白雪姫」を作り出したその人です。
映画人だったウォルト・ディズニーは、一度作り出したら新たに手を加えられない、映画というメディアの特性を根本的に変えることを思い付きます。現実世界をステージとし、そこに役者であるキャストを配置、リアルタイムに作劇してゲストを迎え入れる場所を作ろうという試みです。
それが1955年7月にオープンした、カリフォルニア州アナハイムに存在する「ディズニーランド」です。これらはのちにテーマパークと呼ばれるようになりました。ウォルトにとって、テーマパークは映画の延長線上にあるのです。
そしてウォルトは66年、さらにその先を目指します。ディズニーランドに存在するエリア、トゥモローランドの延長線上にある「未来都市」を、現実に作り出してしまおうという、途方もない計画です。
未来都市の中心にはビジネスエリアを配置。そこから放射状に「ピープルムーバー」と呼ばれるような、排気ガスの出ない新交通システムが伸び、都市の外郭には公園や住宅施設がある──といった、公害もなく、効率的な空間を考えていました。これをウォルトは「EPCOT」と名付けます。EPCOTとは「Experimental Prototype Community Of Tomorrow」の略で、「実験的未来都市の原型」と訳されています。
このコンセプトでは、米国産業界の技術をヒントに、公害のないクリーンな都市を、ゼロから造り直すことを念頭にしています。映像では自動車は地下を通り抜け、都市間の移動は電気で動くモノレール、そして都市内の移動では小回りの利く小さなゴンドラを連結したピープルムーバーを考案、職住一体の都市作りをウォルトは考えていたようです。その一端に、彼が作り出したディズニーランドのような娯楽施設ももちろん用意されています。
ウォルト本人がその計画を話す映像が残っています。彼からすれば、ディズニーランドという新たな仕組みを作り出した後の、さらなる発明の一つとして実現に向け、これから推し進めていこうという考えだったのでしょう。当時テレビ番組内で放送された本編で、ウォルトはこの場所を「決して完成することのない未来の理想都市。常に新しい素材やシステムを導入し、テストしてみせるところ」と表現しています。これはまさに、トヨタの未来都市と一致しているといえるでしょう。
実はこのEPCOT計画の放送直後、66年12月にウォルトは肺がんで亡くなります。
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