このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
大阪大学の研究チームが2月に発表した「IlluminatedFocus」は、ボケを空間制御する視覚拡張メガネシステムだ。一種の隠消現実(Diminished Reality)デバイスといえるだろう。
ユーザーの目から実際のモノまでの距離に関係なく、実環境の特定のモノのみを空間的にボケさせる。これにより、特定のモノに人の注目を誘導する、作業集中のため特定の領域以外をボケさせる、顔のシワやシミを消す──といったことが可能になる。
システムは、焦点距離を電流制御により高速に変調できるETL(電気式可変焦点レンズ)をメガネとし、高速プロジェクターを環境照明として利用する。ETLの焦点距離を高速(60Hz以上)に周期変調させて、焦点の合う位置(合焦位置)を振動させる(焦点スイープ) 。続けて、シャープに見せたいモノに対して、合焦した時にプロジェクターから光を当て、ボケて見せたいモノに対して、合焦しなくなった時に光を当てる。この処理が高速に行われると、パラパラ漫画と同じ原理で、焦点の変調とプロジェクターからの照明はチラつかず、特定のモノだけがボケていると知覚する。
研究チームは、4つの応用例を紹介している。1つ目は、局所的に空間をシャープに周囲をボケさせ視線を誘導する応用。今楽譜内のどこを見ればよいか、ガイド中に今オブジェクトのどこを見ればよいか、などを視覚的に誘導する。
2つ目は、作業に使用するモノ以外はボケさせ排除し、作業に集中させる応用。机上の教科書はシャープに、漫画本はボケさせ、勉強に集中できる学習環境を作る。
3つ目は、局所的にボケを生成する応用。人の肌のシミやシワを局所的に除去する、動くモノに対してのみモーションキャプチャーで追跡しボケを加える──などの活用を見込んでいる。
4つ目は、2D画像内で前景と背景でボケを制御する応用。画像の前景もしくは背景のみにボケを加えることで、奥行きを強調する。
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