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フェイクニュースで株価暴落も AIの“超高速取引”に潜む危険性(3/3 ページ)

» 2020年03月04日 07時00分 公開
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 強化学習は、報酬を基に最適な行動を導き出す手法ですが、人間のように不測の事態に臨機応変に対応するようなことはできません。先ほどのAP通信の例もそうですが、「BREAKING」の文字が「Breaking」になっていたからといって、AIは「何かがおかしい」と疑うような能力は備えていないのです。コンピュータは意図した通りの取引については人間より高速・正確に処理をする実力を発揮しますが、反面そうした弱さも併せ持つのです。実際、こうしたフェイクニュースなどの不測の事態に完璧に対応できるアルゴリズムを開発するのは不可能でしょう。

 HFTが浸透した市場では、人間とAIに予測できない大変動というものが必ず起こります。予測できないとは、人間の認識と知識の範囲、またはAIの統計処理では対応しきれない出来事が起こるという意味です。このような想定外かつインパクトの大きい事象は「ブラックスワン」と呼ばれ、金融トレーダーや研究者などの顔を持つナシム・ニコラス・タレブ氏が同タイトルの著書でも言及しています。

 HFT時代は、このブラックスワンに臨機応変に対応する人間の能力が必要になるのです。

 以前、14年にイスラエルで起きたカーナビアプリのハッキング事件について紹介しましたが、このときにはタレブ氏が提唱する「反脆弱性」(はんぜいじゃくせい)という言葉を使いました。不確実性やリスクに弱いという意味を持つ「脆弱」の反対で、不確実性などを利用して得に変えるという意味があります。人間は画面の中の情報を信じ込んでしまう脆弱性があるのですが、一方でその情報を疑う力も持っています。

 株取引の場合も同様に、画面上にある株価情報だけでなく、マーケットに妙な動きがあったときはすぐさまそれに感づく能力が求められます。画面に映っているものを信じ切ってしまうことは、「In God We Trust」(われわれは神を信じる)にちなんで「In Screen We Trust」といわれることがあります。HFT時代には、「In Screen We doubt」の能力が必要になるのです。

著者プロフィール

安藤 類央(あんどう るお)

国立情報学研究所 サイバーセキュリティ研究開発センター特任准教授。 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程卒業後、 国立研究開発法人情報通信研究機構に入所。 情報セキュリティ、ネットワークセキュリティの研究開発に従事。 2016年に国立情報学研究所に入所。現在に至る。

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