「マンダロリアン」という「スター・ウォーズ」シリーズのドラマをご存じでしょうか。スター・ウォーズの世界といえば、フォースやライトセーバーといったジェダイの騎士を中心にストーリーが展開しますが、その宇宙の片隅で繰り広げられていた、とあるバウンティハンター(賞金稼ぎ)が主人公のお話です。日本でも動画サービス「Disney DELUXE」で配信されています。
2月下旬、そんなマンダロリアンのメイキング映像が公開されました。このメイキング、一番の驚きはCGの使用量です。
昨今の映画は「目に映るもの全てがCGで作られているのではないか」と思うほど、特殊効果をこれでもかと使っています。マンダロリアンでも、主人公のアーマーへの写り込み、反射などをみると、さぞすさまじい時間の処理を行っている……かと思いきや、なんと背景は、意外に安上がりな(?)バーチャルセットでの撮影が行われていることが分かります。カメラが移動するのに合わせ、セットの背景に映しているLED映像の画角を変化させるというものです。
同様の技術は、ソニーが2020年の「CES」でも出展していました。このポイントは、カメラの位置、つまり視聴者の視点に合わせて動的に背景動画をレンダリングするため、スクリーンは平面ながら実に立体的な映像が撮影できることにあります。
こうした技術は、既にディズニーのテーマパークでも実戦投入されています。今回はアトラクションを、視点というテーマで紹介したいと思います。ただし、各アトラクションの“技術的な”ネタバレが含まれていますのでご注意を。
老若男女の笑顔があふれるテーマパーク。その裏側には、AR/VR、ビッグデータ分析など来園者をもてなす最新テクノロジーの数々が隠れています。人々を魅了するエンターテインメントは、どのようにして創られているのでしょうか。宮田健氏が解説します。
ITセキュリティに関するフリーライターとして活動する傍ら、“広義のディズニー”を取り上げるWebサイト「dpost.jp」を1996年ごろから運営中。パークやキャラクターだけではない、オールディズニーが大好物。ポッドキャスト「田組fm」も、SpotifyやApple Podcastで配信中。
いまから約65年前、開園当初のディズニーランド(米国カリフォルニア)には「ダークライド」と呼ばれるタイプのアトラクションがありました。これは暗い屋内の中、レールに従って動く2〜4人用のライドに乗り、映画などのストーリーを追体験するというものです。日本でも「白雪姫と七人のこびと」というアトラクションが、オリジナルと同様に運営されています。
このダークライドというシステムは非常に古典的ながら、方向を都度変えて、アトラクションに乗っている人(ゲスト)に見せたいものを見せる仕組みになっています。これをさらに応用したものが、ホーンテッドマンションで使われている乗り物「ドゥームバギー」です。レールの方向によらず、クルクルと回りますので、より柔軟に「ゲストに見せたいものを見せる」ことが可能になりました。
こうした技術は今、どのように発展しているのでしょうか。ダークライドの最新技術として、ディズニーをはじめとするテーマパークでは「トラックレスライド」と呼ばれる技術が使われています。これは文字通り「トラック」、つまりレールが存在しない仕組みで、ライドそれぞれが自立した動きを実現できるのです。
19年12月にオープンした米ディズニーランド「スター・ウォーズ:ライズ・オブ・レジスタンス」や、20年3月にオープンしたばかりのウォルト・ディズニー・ワールド「ミッキーとミニーのランナウェイ・レールウェイ」がこのトラックレスライドを利用しています。これにより、ゲストをライドに乗せたまま「見せたいストーリー」を注視させることができるようになりました。
最も注目したいのは、16年6月にオープンした上海ディズニーランドの「パイレーツ・オブ・カリビアン:バトル・フォー・ザ・サンクン・トレジャー」です。東京ディズニーランドにもある「カリブの海賊」が映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」にメディア展開し、それがアトラクションとして還流した、上海ディズニーランドオリジナルのアトラクションです。
このアトラクションでは、東京ディズニーランドにあるカリブの海賊のように水流によって動くボートライドとして作られています。しかし、そのライド構造はこれまでにないもので、船首の方向を固定したまま船尾がドリフトするように横滑りし、ライドに乗ったゲストを目の前にあるショースペースに注目させるという動きをします。これは11年にディズニーが取得した特許に基づくもので、それが5年後に上海でやっと日の目を見ました。
実際のアトラクションでは、映画の主人公であるジャック・スパロウが白骨からよみがえる印象的なシーンが作り出されています。この仕組みは、ゲストの視線をいかに自然に誘導するかという課題があったからこそ、生まれたものなのかもしれません。
こうした技術を踏まえて、今回の本題に入ります。ディズニー・カリフォルニア・アドベンチャーにある「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:ミッション・ブレイクアウト!」というアトラクションの仕掛けです。
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