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ディズニーのアトラクションは「視線誘導強制装置」 米国「タワテラ」後継に隠れた“目を欺く”仕掛けテック・イン・ワンダーランド(2/2 ページ)

» 2020年03月24日 07時00分 公開
[宮田健ITmedia]
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 このアトラクションは、見覚えのある人もいるかもしれません。建物の構造(ハードウェア)は、東京ディズニーシーの大人気アトラクション「タワー・オブ・テラー」そのものだからです。

photo ディズニー・カリフォルニア・アドベンチャーにある「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:ミッション・ブレイクアウト!」(筆者撮影)

 タワー・オブ・テラーを例に考えてみましょう。このアトラクションのポイントは、高速で上り下りするエレベーターだということです。落ちる回数やタイミングをソフトウェアでアップデートすることで、異なる印象のアトラクションに変えられる画期的なシステムを導入しています。東京ディズニーシーでは、冬の時期に恐さが増した「タワー・オブ・テラー“アンリミテッド”」を期間限定で開催していました。多額の投資を行ったハードウェアを変えずとも、新鮮さをアップデートできるわけです。

 とはいえ、そのポイントはやはり「落ちる」ところにあります。タワー・オブ・テラーでは落ちる前に数回、扉が開いて映像を見せる(鏡に映る自分たちが消える、目の前の廊下が消え宇宙空間のようになる)といった場面が存在しますが、これはあくまでほんのちょっとの演出でしかありません。

 では、タワー・オブ・テラーというハードウェアをほぼそのまま活用した「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:ミッション・ブレイクアウト!」は、どのようなアトラクションに変わっているのでしょうか。

 高速で上り下りし、まるで無重力空間に放り出されたような感覚を得るスリルライドであることは変わりませんが、ディズニーの技術集団「イマジニア」は映像を見せること、そしてガンガンと大音量で流れる音楽を体感させることにシフトしました。特に映像部分は、なんてことのない(タワー・オブ・テラー時代と同様の)ものに見えます。映画の主人公、ピーター・クイルたちが大騒動を起こす、ほんの数秒間のシーンですが、実はここに巧みな視線誘導の仕組みが隠されています。

「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:ミッション・ブレイクアウト!」制作スタッフインタビュー動画

 上記の動画をご覧ください。17秒のところにそのシーンが含まれています。扉が開くと、基地の中のような場所にてマーベルヒーローたちが登場していますが、よく見ると非常に大きく縦に揺れていることが分かります。これは、冒頭に紹介したバーチャルセット同様に「エレベーターに乗る私たち自身が縦に大きく振れており、その視線にあわせて奥行きを変化させている」のです。

photo 制作スタッフインタビュー動画の17秒、クリス・プラット氏のインタビュー直後に登場するライド映像に注目。途中の映像シーンのわずか数秒でエレベーターのカゴが激しく上下に動き、それに合わせて地平線が上下に変化していることが分かります。これにより、立体感が演出されるわけです

 タワー・オブ・テラー時代は視点(エレベーターと私たち自身)に動きはなく、縦軸は変化しない通常の背景としての映像が登場していました。発展形では、エレベーターという「上下動が可能」というステージをさらに有効活用し、3Dメガネなしに立体感を演出しているのです。これはiPhoneの壁紙などで使われている「視差効果」と似たようなエフェクトと考えればいいでしょう。

 このような視線に合わせて映像の奥行きを変化させる仕組みは、ディズニーのテーマパークだけではなく、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの「ハリー・ポッター・アンド・ザ・フォービドゥン・ジャーニー」や「アメージング・アドベンチャー・オブ・スパイダーマン・ザ・ライド 4K3D」でも利用されています。

「気が付かない」技術が没入感を高める

 かくいう私も、この仕組みには数回体験しても全く気が付かず、同乗していたCGを研究する知人に教えてもらって初めて気が付くレベルでした。特にディズニーのテーマパークでは、このような「言われなければ全く気が付かない」レベルの技術をふんだんに使い、アトラクションが作り出すテーマに沿ったストーリーへの没入感を高めています。

 手品のテクニックで、注目させたいところに注目させることが重要だと聞いたことがあります。注目させてないところでトリックを繰り出すことで、目の前に“魔法”を作り出すことこそが手品の醍醐味(だいごみ)。実は同じようなことが、テーマパークのアトラクションでも利用されているのです。

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