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活動の場を奪われたミュージシャンが体感する、ライブ配信と投げ銭の手応え 新型コロナ「自粛」に挑む(2/2 ページ)

» 2020年03月24日 06時11分 公開
[山崎潤一郎ITmedia]
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QRコード決済アプリで謝意を示す独自の方法

 一方、課題もあった。QRコード決済アプリを使った方法だと、スーパーチャットのように、投げ銭してくれた人をリアルタイムで知ることができない点だ。スーパーチャットであれば、チャット欄に投稿者名やメッセージが金額に応じて色付きで上位表示される。そのためアーティスト側からすると、曲の合間のトークの時間にリアルタイムで謝意を表すことがき、それがさらに他のファンの投げ銭の呼び水にもなる。仁詩さんも「早く条件をクリアしてスーパーチャットが使えるようにしたい」と意気込む。

photo このときのライブではギターの田中庸介さんも加わり、トリオでの演奏を配信。スマホの画面でも楽しめるように3人の配置も工夫している

 ただ、現状のQRコード決済システムでも、投げ銭をしてくれた人に対してリアルタイムは無理でも、謝意を示すための工夫を凝らしている。熊本さんは、次のような仕組みの投げ銭方法を考えた。

 例えば、1000円の投げ銭を行う意思があれば、1010円の支払い設定でメッセージを付けて送信してほしいと訴える。そうすることで、アーティスト側からは、端数の10円をペイバックするようにしているというのだ。その際、アーティストがメッセージを添えて送信すれば、ライブ後にはなるが、謝意を示すことができる。とても良いアイデアだ。

平常運転に戻ってもライブ配信は続ける

 インタビューの最後に両人が口をそろえたのは、「今の騒動が沈静化し、平常運転に戻ったとしても、ライブ配信はできるだけ続けていきたい」という点だ。ライブ配信を継続することで、まず生ライブに参加したお客さん以外にも、ネットを通じ、場所を選ばず、自分たちの音楽を届けられるからだ。

 また、台風や大雪といった不可抗力による突発的なライブ中止の場合でも、ライブ配信を行うことでファンの人たちの期待を大きく裏切ることはない。もちろん、生演奏の魅力には到底及ばないが、チャットを通じたコールアンドレスポンスという、生ライブとは違った魅力を届けることができる。

 最後に、両人の話を聞きながら思ったことを記して記事を締めたい。歴史をひもとくと、14世紀に「黒死病」(ペスト)が流行した際、当時のヨーロッパ人口の3分の1から 3分の2に相当する約2000万から3000万人前後が亡くなったという(Wikipediaより)。これにより農村の労働人口が激減し、労働力の価値が上昇、封建領主に対する農民の地位を高める結果になったというのだ。領主は地代を軽減したり、待遇改善に努力するようになったそうだ。

 新型コロナウイルスによる感染症はその広がりを抑え、一人でも犠牲者を少なくすべきなのはもちろんだが、その一方で社会の仕組みを変える動きも生まれている。音楽でいうと、今回の両人の取り組みのように、ライブ配信と投げ銭の仕組みが定着することで、音楽を楽しむ選択肢が増え、もっと身近になる可能性もある。

 一般のビジネスシーンにおいても同様だ。自粛要請で多くの会社がテレワーク、テレカンファレンスを行うようになった。これによって社会全体が効率性について向き合い、今までの働き方について再考するきっかけになったのではないだろうか。今回の出来事は、不幸なことではあるが、何かを変える契機になる、そういう見方もできるのではないか。

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