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不安あおる情報、陰謀論――YouTubeにあふれる新型コロナ動画が生む「サイバー心気症」動画の世紀(2/3 ページ)

» 2020年04月17日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

「陰謀論」以外の動画も根絶できるか

 YouTubeは今回のパンデミックに際して、「5GがCOVID-19流行の原因だ」や「新型コロナウイルスは生物兵器として開発されたものだ」といった虚偽や陰謀論を唱えるコンテンツには厳しい姿勢を取ることを表明しています。

 こうした動画が害をもたらすことは、誰の目にも明らかでしょう。しかし先ほどの論文で懸念が示されたような、科学的に見て適切な情報が含まれていない動画や、単に不安や恐怖をあおるだけの動画についてはどうでしょうか。研究者らはそうした動画も、「正しい知識が普及する機会を奪う」あるいは「買いだめなど社会的に不適切な行動に走らせる恐れがある」という理由から望ましくないとしたわけですが、これらも削除されるのでしょうか。

 これに関連して、もう一つ興味深いレポートが発表されています。それは非営利団体のTech Transparency Project(TTP)が4月3日に発表したもので、YouTubeが「誤解を招くような新型コロナウイルス関連動画の制作者に広告料を支払っていた」と指摘しています。

 それによると、民間療法や瞑想、サプリメント、ハーブなど、当然ながら効果が科学的に立証されたわけではない治療法を新型コロナウイルス対策として勧める動画において、広告が掲載されていることが確認できたそうです。さらにそうした動画は、「コロナウイルス 家庭薬」のようなキーワードで、検索してアクセスすることが可能な状態になっていました。ただし、現在では報告を受けたYouTube側の判断によりその一部が削除されています。ちなみに掲載されていた広告の出稿者まで確認したところ、大手の損害保険会社や、米Facebookのような大企業、さらにはドナルド・トランプ大統領の再選キャンペーンなどが含まれていたといいます。

 損保会社の広告は、「ウイルスを避けるために中華料理店には近づかないように」と忠告するポーランド語の動画の前に、またウォルト・ディズニー・カンパニーの広告は、「飲料水がコロナウイルスの感染を防ぐことができる」と主張するベンガル語の動画の前に、それぞれ表示されていたそうです。もちろんこうした企業が動画の内容を事前に知り、それに同意した上で出稿しているわけではないので、企業にとっても迷惑な話といえます。

 こうした状況から、TTPはYouTubeの新型コロナウイルスを巡る虚偽情報への対策が不十分だと批判しています。同社は当初、武力紛争やテロ行為、また「健康に関する世界的な危機」に関する動画の広告を禁止するポリシーに従い、COVID-19に関する動画の収益化を禁止していたものの、3月11日にその方針を覆し、「報道機関やクリエイターが持続可能な方法で質の高い動画を制作し続けることができるようにしたい」と宣言。 その後は段階的に新型コロナウイルス関連動画への広告掲載を拡大している、とTTPは指摘しています。

 確かに「これは陰謀論だ」と明確には言えない、つまり客観的・科学的なエビデンスをもってその主張を否定できないような動画を、どこまで削除すべきかという線引きは非常に難しいものです。しかし、新型コロナウイルス関連動画への広告掲載を無制限に許可してしまうと、グレーゾーンにある情報をばらまく人やプラットフォーム自体に対して金銭的なインセンティブを与えることになってしまうでしょう。

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