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不安あおる情報、陰謀論――YouTubeにあふれる新型コロナ動画が生む「サイバー心気症」動画の世紀(3/3 ページ)

» 2020年04月17日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]
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求められる「サイバー心気症」への配慮

 そうでなくても、パンデミックや自然災害のような緊急事態には、怪しげな情報が出回りやすくなってしまうものです。世界保健機関(WHO)も2月2日に公開したレポートで、「新型コロナウイルスの発生とそれへの対応は、『インフォデミック(過剰な情報が押し寄せることで、その中には正しいものもそうでないものも含まれる)』を伴っており、それは人々が必要なときに信頼できる情報源や信頼できるガイダンスを見つけることを難しくしている」と警告しています。ただでさえ情報が過剰に出回りやすくなるときに、金銭的なインセンティブを与えてしまうことには注意が必要でしょう。

新型コロナの感染者情報。世界保健機関(WHO)が2月2日に公開したレポートより

 そもそも病気や医療に関する情報は、ネット上で過剰に求められる傾向があることが指摘されています。米国のドラマ「CSI:科学捜査班」のスピンオフ「CSI:サイバー」の主人公のモデルになった、サイバー心理学者のメアリー・エイケン博士が、自著の中である国際的な調査を紹介しているのですが、それによると調査対象者の大部分が「医療情報を探すためにインターネットを使う」と回答し、その半数が「Webの検索結果に従って、自分で診断したことがある」と認めているといいます。またその後のフォローアップ調査では、1万3373人の回答者のうち83%が、健康や医療、症状に関する情報やアドバイスを得るために、頻繁にネットを検索していることが明らかになったそうです。ちなみに新興国のほうがこの傾向が強く、中国では94%、タイでは93%、サウジアラビアでは91%、インドでは90%という結果が得られたのだとか。

 そうした人々が正確な情報を得ているのであれば問題ありませんが、エイケン博士は「インターネット上で提供されている医療情報のおよそ半分が、専門家の目から見て、不正確か議論に決着がついていない内容だ」と指摘しています。こうした不確かな情報によって、不安が不安をあおるというエスカレーションに陥る状態を「サイバー心気症」といいます。

 「心気症」とは、自分が病気かもしれないという思い込みから、不安や苦痛といった精神的な負担を感じてしまう状態を指します。誰でも病気は不安なもので、安心感を得たいという気持ちは分かりますが、不正確な(場合によっては逆効果となるような)情報にいくらでもアクセスできる現代においては、それがサイバー心気症という形で害をもたらすかもしれないのです。

 「バイラル効果」のように、情報はときにウイルスに例えられます。そのたとえに従えば、情報はウイルスのようにあっという間に拡散するだけでなく、人々の精神や肉体に実際の害を与える場合もあるといえます。そうした前提に立ってこれからのインターネット環境や、それを含むメディア全体の情報環境を整備していくことを、アフターコロナの世界では考えていかなければならないでしょう。

著者プロフィール:小林啓倫(こばやし あきひと)

経営コンサルタント。1973年東京都生まれ、獨協大学外国語学部卒、筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米Babson CollegeにてMBAを取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業などで活動。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』(朝日新聞出版)、『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『テトリス・エフェクト 世界を惑わせたゲーム』(ダン・アッカーマン著、白揚社)、『シンギュラリティ大学が教える 飛躍する方法』(サリム・イスマイル著、日経BP社)『YouTubeの時代』(ケヴィン・アロッカ著、NTT出版)など多数。

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