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不安あおる情報、陰謀論――YouTubeにあふれる新型コロナ動画が生む「サイバー心気症」動画の世紀(1/3 ページ)

» 2020年04月17日 07時00分 公開
[小林啓倫ITmedia]

 4月半ばを過ぎても、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は衰えていません。震源地となった中国や、患者が急速に広がったイタリア、あるいは早期から徹底したロックダウン(都市封鎖)を行った地域では最悪の状態を脱しつつあるものの、世界全体では依然として感染拡大の傾向にあります。

 そんな中、YouTubeは自社プラットフォーム上で偽情報や陰謀論が拡散することを抑えるために、いくつかの取り組みをしています。その詳細は前回の記事で紹介しましたが、今回は新型コロナウイルス関連動画としてどのようなコンテンツが視聴されているのかを見てみたいと思います。一つ、興味深い調査結果が出ています。

YouTubeより

恐怖や不安をあおる動画が多い

 それは医療情報学の学術誌JMIR(Journal of Medical Internet Research)に掲載された、米ウィリアム・パターソン大学の研究者らによる論文で発表されたもの。

 この論文によると、2020年1月にYouTubeにアップロードされた新型コロナウイルス関連動画のうち、再生回数の多い上位100本(合計再生回数は1億2500万回以上)の内容を確認したところ、米国疾病対策予防センター(CDC)のWebサイトに掲載されている7つの主要予防行動のいずれかを紹介している動画は3分の1以下だったそうです。この結果について研究者らは、せっかく視聴された動画の中に正しい感染症予防の知識が含まれていなかったことから、「疾病予防のための重要な機会を逃した」と評しています。

 それだけではありません。100本の動画のうち、84本は死について言及し(死亡数や死亡率の推定値など)、74本は不安や恐怖について言及していたそうです。つまり再生回数の多い動画の大部分に、恐怖をあおるような内容が含まれていたことになります。

 もちろんそうした動画を見ると、新型コロナウイルスに関する正しい知識が含まれた動画を見なくなるわけではありませんし、逆に恐れから外出を控えようという気持ちになるかもしれません。ただ度を過ぎた恐怖は、冷静な行動にとってマイナスとなります。論文の研究者らは、「恐怖や不安をあおるようなコミュニケーションは、予防行動を促す一方で、医療品や衛生用品、食料品を買いだめしたり、病院や救急外来を不必要に受診したりするなど、不適応で社会的に無責任な行動につながる可能性がある」と指摘し、分析対象となった100本のYouTube動画が、正しい知識や態度を広めることに貢献していないと結論付けています。

 しかし分析対象となった動画は1月にアップロードされたものなので、その後の流行の拡大に伴って別の動画が視聴されるようになった可能性もあります。この点について同論文は、対象動画の再生回数が「2020年3月5日までに30%以上増加し、合計1億6500万回以上視聴されている」として、同じ動画が継続して大勢の人々から見られていると説明しています。この状況について、「より最近のYouTube動画のほうが予防行動をより広範囲にカバーしている可能性があるにもかかわらず、私たちがサンプルとした動画の再生回数は増加し続けている」と懸念を示しています。

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